TODAY'S
 
記憶の交差点

—神保町の路地裏で、青春は黄身に沈んだ—

 

まだ学生だった頃、40年以上も前の記憶。

神保町の表通りから一本奥に入った狭いい路地。

 名前も場所も、もう覚えていない。

 でも、あの定食屋の空気だけは、今も腹の底に残ってる。

生姜焼き定食が500円。

 目玉焼き定食が400円。

 その100円の差が、俺には越えられなかった。

財布の中には、500円玉が一枚。

 でも、その、100円の節約の積み重ねが後々に響く。

 だから、いつも目玉焼き定食。

 白い皿に、目玉焼きが2つ、目玉焼きの下には薄っぺらいハム、

その脇にほんの少しだけ千切りキャベツが添えられている。 

それが俺の昼飯だった。

隣の席の誰かが、生姜焼きの香りを漂わせる。

 肉の油と生姜の香りが、俺の選択を責めてくる。

 悔しくて、悲しくて、切なくて。

 でも、あの目玉焼きは、俺の青春だった。

今なら、100円の差なんて気にせず頼める。 

でも、あの頃の俺には、それができなかった。 

だからこそ、あの400円の定食は、記憶の中で輝いてる。

 

目玉焼き定食とご飯、味噌汁