映画【首】 | G16 Holic

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コラムと映画レビューの話


2023年/東宝=KADOKAWA/時代劇
監督:北野武
主演:ビートたけし(羽柴秀吉役)
2023年11月23日日本公開

天下統一の野望を掲げる織田信長だったが、家臣・荒木村重の反乱にあう。
信長は羽柴秀吉や明智光秀に荒木を見つけるように命じる。
村重と愛人関係にあった光秀は、村重をかくまう。
この件をきっかけに謀略が渦巻いていく。

この映画、海外の試写では反応があまり良くなかったって聞いたけど、鑑賞してその意味がわかった気がした。
この映画は観客が「戦国時代の事を詳しい」前提で作られている。
海外の人が日本の歴史にどれどけ詳しいか知らないけど、映画の中でまったく説明されないから、知らなかったらちんぷんかんぷんな映画だと思う。
ましてや本作は史実をたけし流に改変した映画なのでなおさらだ。
キャッチコピーは「狂ってやがる」。
人の命を命と思わず、騙し、寝首をかく。
「全員悪人」ではなく「全員狂人」ってわけだ。
戦国時代という異常な時代が人を狂人化させる。
それを生々しく描いている点が北野映画らしさである。
また、そこに同性愛を起因とした愛憎劇も練り込んでいるからより生臭い。
たけし、大森南朋、浅野忠信が顔を揃えるシーンだと途端にコントの雰囲気になるのも北野映画の色と見ていいだろうw
この3人の空気感だけ他のシーンより軽く感じるのは、つまり「この世界が狂人の世界である事を認識している」のは秀吉だけだったという事。
「俺は百姓だよ!」というセリフや、「首なんかどうでもいいんだ!」と蹴り飛ばすシーンに集約されているし、秀吉だけおっさんずラブの蚊帳の外なのも傍観者である事を表している。
本能寺の変のとき信長は48歳。秀吉45歳。家康39歳。
76歳のたけしが秀吉を演じ、家康を72歳の小林薫が演じる。
もうこの時点で「史実再現」という概念は監督には無いのだろう。