太宰治の初期の作品で、目立たないけれども、列車に対する表現や特に擬人法が見事である。


その書きだし一文から味わい深い。


「一九二五年に梅鉢工場といふ所でこしらへられたC五一型のその機關車は、同じ工場で同じころ製作された三等客車三輛と、食堂車、二等客車、二等寢臺車、各々一輛づつと、ほかに郵便やら荷物やらの貨車三輛と、都合九つの箱に、ざつと二百名からの旅客と十萬を越える通信とそれにまつはる幾多の胸痛む物語とを載せ、雨の日も風の日も午後の二時半になれば、ピストンをはためかせて上野から青森へ向けて走つた。」


「發車が間近いのである。列車は四百五十哩の行程を前にしていきりたち、プラツトフオムは色めき渡つた。」


この小説の時代から77年後の現在、新幹線の東京駅のプラットホームに立って、友人を見送るとしても、この小説のような情景にはならないだろう。


何かあっさりしているというか、あっけないような気がする。