少し前に、CARL ZEISS JENA DEKAREM 10×50 1Q、
デカレム10×50 1Q 1970年製の個体の、
オーバーホールのご依頼を頂いたのだが、
是非、様子を記事にして欲しいとのご要望を頂いたので、
以下、記録として記事にさせて頂こうと思う。
1970年の個体には、フォーカスリングにも、
まだ、きちんと目盛りが刻まれている。
個人的には、これがあるか無いかは、
大きな違いだと考えている。
デカレムは、10倍機の双眼鏡として、
カールツァイスイエナを代表する傑作機であり、
周辺まで歪みが少なく、10倍機としては視野も広く、
最近では、私個人的には、10×40BGA T*P* 以上に、
好きな機種かも知れない。
その理由は至ってシンプルで、
デカレムの方が、覗いていて楽しいと、
私は感じるからである。
デカレムのスペック 等については、
当時のカタログを参照されたし。
さて、ではまず 対物側から分解して行く。
対物筒や、プリズムカバーを外すと、
遮光カバーに覆われたプリズムが現れる。
プリズムを押さえる為の金具には、
錆が発生していた。
1970年頃からの、アイスフェルド工場で生産された個体には、
プリズムカバーの裏側に、
ビニール状のシーリングシートが確認される。
ちなみに、このシート状の部品は、同時代の
デルトリンテムでも同様に、確認する事が出来る。
対物筒、対物カバー 等
プリズムを押さえる金具には、
左右ともに錆が発生していた。
この現象も、1970年台以降のカールツァイスイエナの製品では、
よく見られる現象で、デルトリンテム等でも、
よくこの部品に、錆が発生している。
興味深い事に、イエナ工場製の個体では、
それが例え 100年近く前の個体であっても、
このプリズム押さえの金具に錆が発生している個体を、
私はまだ一度も見た事が無いので、
もしかすると、部品の材質が変わっているのかも知れない。
プリズムの遮光カバー ( 恐らくはアルミ製) と、
プリズムを押さえる金具。
まずは、錆を落とし、クリーニングを行う。
プリズムは、対物側から見る限りでは、
殆ど曇っているようには見えず、
オーナー様も、プリズムは問題なく、
綺麗だと思われていたようだ。
しかしながら、ご覧の通り、
結構な曇りと汚れが確認された。
クリーニング後
デカレムのプリズムは、大きくて重い。
次に、接眼側を手掛ける。
接眼側のプリズムカバー裏にも、
やはり、シーリングシートが確認される。
そしてやはり、接眼側のプリズム押さえの金具にも、
錆が発生していた。
接眼側のプリズムにも、ご覧の通り、
曇りが確認される。
この程度の軽微の曇りの場合は、
例え、接眼側からライトを当てて、
対物側から確認してみても、
判別が出来ない事もある。
一見、問題が無いように見えても、
プリズムを取り出してみないと、
分からない事も少なくないのである。
クリーニングすると、一段と輝きと透明度が増す。
接眼側、対物側共に、それぞれ 殺菌処理を施す。
↓ クリーニング後に、プリズムを組み込んだ状態。
ちなみに、この個体のオーナー様は、
当初は光軸の狂いを調整して欲しい、
とのお問い合わせであった。
少しの狂いの場合は、対物側の偏心リングで、
光軸の微調整を行うのだが、
一度、分解した場合は、
プリズムの位置決めから、光軸調整を行う。
これを、まずはきちんとしないと、
偏心リングだけでは、調整不能となるからである。
プリズムの位置決めは非常にシビアで、
数ミクロン単位でも、像が大きく傾いたり、
想像以上に大きく変化するので、
極めてデリケートでシビアな作業である。
全ての作業を終えて、組み立てた後、
フォーカスリングの0位置を無限遠に調整し、
最後に、光軸の微調整を行う。
プリズムも、すっかり綺麗に蘇ったデカレムは、
やはり素晴らしい像を見せてくれる。
パッと覗いただけでは殆ど気付かないくらい、
ほんの僅かな程度に、黄色味の着色があるのだが、
それが逆に良い味、アクセントとなっていて、
山や木々を見た時に、とても活き活きとし、存在感がある。
立体感や奥行き感も素晴らしく、
覗いていて、とても楽しい双眼鏡だ。
最後に、後日オーナー様から頂いた感想を、
掲載させて頂き、筆を置かせて頂きたいと思う。
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昨日、修理済みのデカレムを受け取りました。
丁寧に修理・梱包をしていただきありがとうございました。
普段は低倍率のコンパクト機を好んで使っていますが、
遊びの要素がある双眼鏡も使ってみたくなりました。
手持ち最大口径50ミリ & 広角 & 10倍に惹かれて
入手したのがデカレムでした。
フジノンの10×50のほうが光学性能が上なのは知っていますが、
どうもフラットナーレンズが不自然で嫌いなのです。
最新のコーティングは白さが際立つように設計されていますが、
デカレムの古臭い黄色みを帯びた像も味があっていいです。
10倍の割には色収差が少なく、スッキリと見えます。
おかげさまで光軸の違和感は一切なく、快適です。
空回りしていたディオプターも
正確に機能していて嬉しい限りです。
これまで何十台も双眼鏡を購入してきましたが、
手元にあるのは使って楽しい双眼鏡だけです。
今回のデカレムもコレクションに加えて
あちこち連れまわしたいと思っています。
また、機会がありましたらよろしくお願いします。
N様、この度は本当にありがとうございました。
心より、感謝申し上げます。
最後までご覧頂きまして、
ありがとうございました。
感謝
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