夏の終わりにホラーひとつ『ノスフェラトゥ』 | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。

訪問ありがとうございます。

 

もう2019年の夏も終わろうとしている。月並みな言い方だが、歳をとると時間の経過が早く感じられる。といふのも納得の日々である。
これまた月並みな物言いだが、夏といへば“怪談(ホラー)”が通り相場。だが、あまりホラー系は観ないので、シーズンだからと言ってレビューする気もなかった。
しかし、奇人ヴェルナー・ヘルツォーク監督作品で製作当時から気になっていたフィルムがあるのでちょいと紹介しておこうと思い立った。


『ノスフェラトゥ』 Nosferatu: Phantom der Nacht (‘79西独) 107分
梗概
ブレーメンの不動産屋勤務のジョナサン・ハーカー(ブルーノ・ガンツ)は、トランシルヴェニア地方の古城主ドラキュラ伯爵(クラウス・キンスキー)のもとに契約締結のために派遣される。深山幽谷に分け入りたどり着くと、不気味な伯爵の正体は吸血鬼だった。早速睡眠中に咬まれるハーカー。さらには彼の妻ルーシー(イザベル・アジャーニ)や勤務先の上司が伯爵の魔力の影響なのか心身の異常をきたす。

伯爵は身を潜めた黒い棺桶をブレーメン行の船に積み込ませて入国。購入した屋敷に身を隠しルーシーを狙う。そこへ不眠不休で帰宅したハーカーだが病に臥せる。それが吸血鬼の仕業と断じたルーシーは身を挺して夫を救うことを決意する。

1922年、F・W・ムルナウ監督が映画化した際には、ブラム・ストーカーの遺族から「吸血鬼ドラキュラ」の映画化の許諾を得られなかったゆへ、タイトルを変へたうえ伯爵もドラキュラからオルロックへと名を変更した。


して、そのサイレント版が後世に与えた影響たるや計り知れぬものがある。詳細は以前のレビューを参照してもらうとして、本作は同じドイツ人監督ヘルツォークがオリヂナルへのリスペクトの表明としてリメイク。著作権の期限切れとともに撮りあげたゆへドラキュラの名を使用できたが、オリヂナルに倣っているため原作小説とはやや異なる物語だ。
世界初の吸血鬼銀幕デビュー『吸血鬼ノスフェラトゥ』


しかし、流石にアップデイテッドされており、そっくりそのままのリメイクではない。
例へば、小説の登場人物ヴァン・ヘルシング教授が登場する。そう、後年吸血鬼ハンターとして吸血鬼映画で大活躍する人物だ。
また、ドラキュラ伯爵が持ち込んだネズミに起因するペストの大流行がより詳細に切迫した危機として描かれる。この騒擾に乗じて伯爵は暗躍する土壌を固めるといふ関連性が明確になる。

 *廃墟のような古城の伯爵邸*
 

だが、より今日的な印象を強く与えるのはルーシーの人物造形にある。
製作当時はちょうど所謂“女性映画”真っ盛り。女性の自立・社会進出が目覚ましい時代だった。かつてのウーマン・リブ運動の果実だったんだろう。そんな中にあって公開された映画はまさに米国社会との合わせ鏡であった。

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『アリスの恋』('74)、『愛と喝采の日々』('77)、『グッバイガール』('77)、『結婚しない女』('78)、『9時から5時まで』('80)、変化球で『ミスター・グッドバーを探して』('77)等々。

その系譜は『告発の行方』('88)、『ワーキング・ガール』('88)、『エリン・ブロコビッチ』('00)へと至る。

『エイリアン』の生存者を見よ!

 

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そして同時にかつてない“強い女性”像が強調されたりもした。『リップスティック』(‘76)、『エイリアン』(‘79)。

そのDNAは『ターミネーター』('84)、『エイリアン2』('86)、『テルマ&ルイーズ』('91)、『G.I.ジェーン』('97)へと引き継がれる(『エイリアン』『テルマ&ルイーズ』『G.I.ジェーン』リドリー・スコット監督作といふのは偶然か?)。これらを模したB級映画も含めれば枚挙に暇がないだろう。

『エイリアン』以降の女性像を見よ!


そうした時代性ゆへか、ルーシーは吸血鬼の影響下にある病める夫を解放すべく自律的・能動的に行動する。

吸血鬼が陽の光に弱いことを知り、己の生き血を餌にヤツをおびき寄せる。ハーカーが身に付けているロケットに納められていたルーシーの写真を目にして以来、彼女の美しい首筋に魅入られたようになった吸血鬼。ルーシーの思惑通り朝日を浴びて死体と化す。ヘルシング教授は杭を打ち込みトドメを刺す。


男性が吸血鬼に狙われる女性を救出するわけではないのだ。妻が夫を、いわば吸血鬼と対決して救助すべく行動を起こすのである。

エイリアンと直接対決に挑み、結果として傷ついたマイケル・ビーンを生きながらえさせたリプリーとダブって見える。


但しネタバレとなるが、皮肉なことにハーカーは次世代の吸血鬼として生きることになってしまう。これも『エイリアン3』('92)で、母娘のような絆を結んだ少女とM・ビーンは死亡し、結果的に生き残ったのは自分だけのリプリーを連想させる。
古典的なホラーではあるが、このように70年代以降の社会状況と二重写しになるのが面白いではないか。


ちなみに忘れ難いのが、家路を急ぐハーカーを乗せた馬車が水面に映り、東山魁夷の世界を想起させるシーンである。美しいショットに心を奪われる。

そして、音楽をヘルツォークお気に入りのジャーマン・ロックバンド「ポポル・ヴー」が手掛けている。

 *左:LP版、右:CD版*
 

ところで、クラウス・キンスキー扮するドラキュラ伯爵はオリヂナル版をほぼ踏襲。
違いは、眉無し。非ぎょろ目。非大きな鷲鼻。非猫背。といったところと、より一層迫力ある不気味さが増し加わったことだろう。製作当時のスチルがマジ怖かった。

ヘルツォーク監督とは生涯5作品で主演するなど名タッグで知られる。


 *ブルーノ・ガンツと*

 

イザベル・アジャーニも白粉が厚く塗られているが若く美々しい。

『アデルの恋の物語』(75)の美貌に眩暈したが、『テナント』('76)、『ブロンテ姉妹』('79)は未公開。『ザ・ドライバー』('78)では色添えにとどまるなど、アデルよもう一度!的欲求不満が昂進していた頃のこと。

『テナント』、『ブロンテ姉妹』、そして本作も未公開(80年代半ばに本邦初公開)だったといふのはどういうことなのか。「スクリーン」や「ロードショー」の情報に胸を焦がしたものだ。


 

国際俳優として活躍したブルーノ・ガンツは本年逝去したことが惜しまれる。

 *吸血鬼化・・・十字架を引きちぎる*
 

さてさて、去りゆく夏を偲んで本作を取り上げたが、なかなか接する機会も無さそうなフィルムかと思われる。ベルリン国際映画祭に出品されるなど評価も高い。怪優K・キンスキーのドラキュラ伯爵は一見の価値アリだ。

本日も最後までお読み下さりありがとうございました。

*ブレーメンとドラキュラ城の直線距離・・・遠いな*

 

監督:ヴェルナー・ヘルツォーク

『アギーレ/神の怒り』(72)『フィツカラルド』(82)『バッド・ルーテナント』(09)

音楽:ポポル・ヴー

『アギーレ/神の怒り』(72)『フィツカラルド』(82)『キンスキー、我が最愛の敵』(99)