70年代パニック映画の切り込み隊長『大空港』 | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。


以前にも“パニック映画”って聞かれなくなったなあ。見掛けなくなったなあ。みたいなこと書いたが、今でも一定程度以上のジェネレーションには余裕で通じるみたいだ。


それはさておき、“パニック映画”が盛り上がったのは70年代。しかも大作、超大作仕様のオールスター映画を指して言うことが多いのでビッグバジェット映画でもある。
その嚆矢となったのがこれ。


『大空港』 Airport (‘70) 137分
梗概
大雪の影響でシカゴの国際空港では動けなくなった旅客機が滑走路をふさぐトラブル発生。空港長(バート・ランカスター)の要請でベテラン技術者(ジョージ・ケネディ)が大急ぎで復旧作業をすすめている。しかし、その前に離陸した機内では乗客の男(ヴァン・ヘフリン)が爆発物を持ち込んでいることが判明。乗客には内緒で空港に戻ることを決定。その間に機長(ディーン・マーチン)や乗務員ら(ジャクリーン・ビセット)がそれを奪取することに失敗。トイレに逃げ込んだ男が自爆し、機体が損傷を受ける。空港まで機体がもつのか。滑走路は復旧するのか。サスペンスが起動する。

今ではもう珍しくも何ともないストーリーが展開するが、そんなの関係ねえ。要はオールスターキャストの競演を楽しむことにある。これ基本。後続の大作パニック映画も豪華キャストこそが見世物なのである。これがフォーマットだ。いわゆる群像劇、“グランド・ホテル形式”の人間ドラマである。
なので役者に目を向けようではないか。


・バート・ランカスター・・・・・・・空港長
・ディーン・マーチン・・・・・・・・機長
・ジーン・セバーグ・・・・・・・・・空港勤務員
・ジャクリーン・ビセット・・・・・・CA
・ジョージ・ケネディ・・・・・・・・・ベテラン技術者
・ヘレン・ヘイズ・・・・・・・・・・・・無賃常習者
・ヴァン・ヘフリン・・・・・・・・・・・失業者・爆破犯人
・モーリーン・ステイプルトン・・その妻
・ダナ・ウィンター・・・・・・・・・・・空港長の妻
・バリー・ネルソン・・・・・・・・・・パイロット


子どもの頃はこのメンツを眺めても何の感慨もわかなかったが、今こうやって改めて目にするとオール“スター”か否かは別として役者が揃った。と素直に思える。本作にてH・ヘイズがオスカー受賞(助演女優賞)、M・ステイプルトンがゴールデングローブ助演女優賞受賞という事実がそれを如実に物語っていよう。

 *H・ヘイズとV・ヘフリン*
 

しかも大作路線の特徴として、高齢者の起用が多い傾向がある(大人の観客に見慣れた顔や懐かしい顔を見せられるからか?)。ゆえに、キャストは地味めでやや華に欠けるきらいきらいがある。上のメンバーを見てもらえば納得だろう。

そこで、若くて美しい女優を“色添え”としてキャスティングするのもお約束。もっともこれは昔から西部劇などでは押さえるべきツボだったりするのだが。それがJ・ビセットでありJ・セバーグである。


ちなみに、オスカー受賞経験者がB・ランカスター(主演男優賞)を筆頭に、G・ケネディ(助演男優賞)V・ヘフリン(同)H・ヘイズ(主演女優賞)ら。M・ステイプルトンは‘81年に『レッズ』で助演女優賞を受賞するだろう。

 *M・ステイプルトン*

 *V・ヘフリン*
 

さて、そんな俳優陣による群像劇なので、派手なスペクタクルを期待すると大きく裏切られることになる。実際、パニック映画的な見せ場は、機内での小爆裂とその衝撃で乗客が文字通りパニックに陥るシーン程度だ。
あとは雪中の空港滑走路での旅客機や全景を70mmの大画面で見せるなどするくらいのものだろう。よって、人間ドラマの方に重点が置かれる。

 *意外としょぼい爆裂*
本作の場合、

①空港長とその妻と空港勤務員、

②機長とその妻とCA、

③爆破犯とその妻、

④無賃常習者、

⑤ベテラン技術者、

となり、特に①②③の家族(夫婦)をメインとするドラマが展開。①②に関しては平たく言えば俗っぽい不倫モノである。
現今の“ディザスターフィルム”などと比較するとスペクタクルよりも、むしろサスペンスに比重が置かれている。群像劇+サスペンスだ。


そんなことでスリルを楽しんで映画を見終えたときに、すっきりとカタルシスを感じるかといふとそうでもない。少なくとも自分は。だって、空港長と機長がそれぞれの妻との関係のけりの付け方や、爆破犯人の妻の悄然とした姿を見ると、大勢のハッピーの陰にあるアンハッピーがにわかに現実味を帯びて迫って来るのだから。殊に犯人の妻の先行きを思うといたたまれなくなる。M・ステイプルトンの好演に、さすが名女優。と声が飛ぶだろう。

 *J・セバーグとB・ランカスター*

 *D・マーチンとJ・ビセット*
 

『アルマゲドン』のように世界中が歓喜に溢れる有様をCMフィルムもどきに見せて平準化して終わり。ではなく人間の、人生の悲哀から目を逸らさずに描き込んだのは現実を見据えてリアルである。大勢の救われた命の陰にある名も無き人の死も忘れ難い。

 *思いつめた表情のV・ヘフリン(汗)*

 

このように、自分としては70年代に花開いた“パニック映画”のエンディングには常に救出の歓喜よりも、例へるなら祭りの後の虚無感・虚脱感のような雰囲気が濃厚に漂っていたように思へる。


これすなはち、ただの見世物では無しに大人の鑑賞に耐え得る一定程度見応えのある人間ドラマが成立していたことの証左ではなかったか。派手な見世物を期待する子どもには退屈だったのはここらへんに理由があるのではなかろうか。

 *B・ランカスターとG・ケネディ*
 

ところで、この『大空港』は別の意味でもエポックメイキング的な作品でもある。
ベトナム戦争の深みと深刻な国力の低下に悩む米国。そこに登場した現実路線のアメリカンニューシネマといふカウンターカルチャー。このニューウェイブへのアンチテーゼとしての保守主義への回帰を宣言している。

 *70mmの大画面も引き締まるG・ケネディの迫力*


監督のジョージ・シートンといふ人選からして復古調だ。久しく絶えていたオールスターによる“グランド・ホテル形式”。そして超大作映画。かつてのスタジオシステム流を思わせる製作。これら凡てが懐かしい。星条旗よ永遠なれ。自信と誇りを忘れるな。と聖林保守派からのカンフル剤が米国民へと放たれたような印象だ。


これ以降聖林は『ポセイドンアドベンチャー』『タワーリングインフェルノ』『大地震』等を連打し、『ロッキー』を経由して『スターウォーズ』へと至るのである。


詳細については別稿に譲る。

本日も最後までお読み下さりありがとうございました。

 

監督・脚本:ジョージ・シートン 『聖処女』『三十四丁目の奇蹟』『喝采』
撮影:アンソニー・ラズロ 『ニュールンベルグ裁判』『愚か者の船』『ミクロの決死圏』
音楽:アルフレッド・ニューマン 「20世紀FOXのファンファーレ」『荒野の決闘』『慕情』

 

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