『ゲンセンカン主人』つげワールド再現す | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。


伝説的な漫画家といふのは数知れずいることだろう。まあ大抵はコアなファン層を獲得することでそんな呼称が成立するんだろうが。
その中でもずば抜けて知名度が高い漫画家の一人がつげ義春だ。このレベルだとファン層の周縁部から外部にかけてもある程度周知されている。
貸本漫画文化の寵児つげ義春作品集


で、彼の代表作とも言ふべき一本をタイトルにした映画がDVD化されていた。


『ゲンセンカン主人』 (‘93) 98分
梗概
1話:李さん一家
田舎暮らしを始めた主人公が借りた家の二階に居候し始めた李さん一家。四人との奇妙な日常をスケッチ。
2話:赤い花
渓流釣りに出かけた主人公が遭遇する茶店の少女とガキ大将的少年のやりとりの一幕。
3話:ゲンセンカン主人
老人ばかりの田舎のひなびた温泉宿ゲンセンカン。そこの主人と瓜二つと言われる主人公が聞かされた主人とおかみさんの出会いとその後の顛末。興味を持ち、老婆たちの制止を振り切りゲンセンカンに投宿しようとする主人公。その姿に怯える宿の二人。
4話:池袋百点会
池袋の商店街のPR誌の発行を計画した主人公の知人。一件三千円で広告を請け負い、百件募集して広告収入を得ようとするが…。
エピローグ:つげ義春一家を交えての試写会と軽いインタビュー


以上4作品の短編集である。1話と2話は各10分足らずのショートフィルム。4話が最も長尺。


各話の傾向はといふと
1話がコミカルな味付けで気楽に観られる。


2話はちょっとファンタジックな伝奇モノっぽい心温まる小品。


3話が最も夢幻的で原画も水木しげるが描く背景と見紛う緻密さだ。そしてエロチックなシーンも再現されている。


4話は一番無理なく身近に思える話。都会の冴えない青年の視点。

エピローグ(?)

完の次に劇場内の客席が現れ、明かりが点くとキャスト全員が客席に向かって勢揃い。最前列にいるつげ一家に挨拶する。

どうだったか。と感想を求められると居心地悪そうに、映画の事はよく分かりません。と答える。そのままラストシーンへと移行。二階に李さん一家。一階につげ一家が開かれた窓に向かって立つ画で終わる。


原作は4話が‘84、他は60年代末期の作だ。

いずれも原作に忠実、を心掛けて制作されていることが見て取れる。大きな改変が施されていないため原作ファンの怒りを買うリスクは低いだろう。ただ、1話は原作と少々違う箇所もあるが。


例へば、1話に登場する田舎家屋は木造二階建てのあばら屋で、五右衛門風呂まで再現されて好い感じだ。李さんが野鳥と会話するシーンもオリヂナルに近く安心できる。


3話の街並や宿の内湯などもセットかロケか分からないが原作の不気味さが再現されていて漫画の世界が立体化したようである。


全作品に亘っていたる個所でセリフや身振りまでもが完全映像化されているし。


さて、やはりその中で迫力あるのは文句なしに第3話。群馬県内にある「湯宿温泉」『大滝屋旅館』に着想を得たといふのは有名な話。もっとも今では当時の様子は微塵も見当たらないが。
現在では接骨医院を併設していて、客室に宿泊しつつ治療と温泉でダブルの効果を期待できるようになっている。自分は他の宿に何回か宿泊しているが、『大滝屋旅館』の内湯にも入れてもらったこともある。


ここは5軒ばかりの旅館を擁する街道沿いの小さな集落で、注意しないと見落としてしまいそうだ。
そんな狭いエリア内に外湯が4軒もあるのには吃驚である。いずれの施設も風情があり、ちょっと熱めの湯浴みが体験できる。地元の住人による入念なメンテナンスがなされており、寸志専用箱にこころよく硬貨を投入する気持になれる。

 *竹の湯*

 *松の湯*
 

閑話休題


原作漫画はどれもが昭和時代の産物であり、当時の世間一般の日常生活が描かれていて懐かしい。そう、60年代後期頃のことか。4話など四畳半フォークの世界観そのままだ。

義雄の青春おばけ煙突-1
当時、つげ作品はよく漫画雑誌『ガロ』に掲載されていた。全共闘世代にとっては馴染みある雑誌であろう。大学生の活動家にも愛読されたといふ。そんなバックボーンもあり、高い年齢層から自分のような世代まで、作者・作品ともども認知度が高めなんだろう。

ねじ式紅い花
さて、全作品通して主人公を演じるのは佐野史郎。ちょうど冬彦さんに扮してブレークした頃だ。

やや意外の感に打たれるのが4話の出演者。川崎麻世岡田奈々の顔触れ。

この岡田に中条あやみが激似である。小顔に大きな目と厚めの口元がそっくりだった。丁度『覆面系ノイズ』直後に観たものだから余計そう見えたのかもしれない。

 *岡田奈々と中条あやみ*

 

そして驚くべきはエンディングに作者本人のみならず一家全員を登場させてしまうところにある。

前述の通り、ここで演者も佐野史郎を筆頭にカーテンコールのように勢揃い。そして皆が作者に向かってお辞儀するなど虚実の境界線が溶解してしまうのだ。

ラストシーンも第1話のエンディングとリンクさせるなど意表を突いてくる。


監督・脚本は『網走番外地』シリーズ石井輝男。随分頑張ってくれたものだ。原作へのリスペクトを大いに感じる。5年後には『ねじ式』の映画化にも取り組むことになるだろう。


『ゲンセンカン主人』。つげ義春作品が気になる人は手にとってみてもらいたい。


本日も最後までお読み下さりありがとうございました。