大雪だったから引き籠り計画発動~その1『十二人の怒れる男』 | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。



先週の土曜日は一日中の降雪なので屋内に引き籠る決意。
午前中妻が近所の接骨院にgonzalezのゴム長履いて徒歩で行った。ついでにDVD3枚レンタルしてきた。タイトルは『十二人の怒れる男』『ダイハード5』『華麗なるギャツビー』(リメイク版)という混沌ぶり。
土曜の夕飯前後に1本ずつ。日曜の夕飯後に1本。全クリアー。


『十二人の怒れる男』 12 Angry Men ('57)


梗概
スラム街に住まう18歳の少年が父親殺しの罪で裁かれることに。12人の陪審員が蒸し暑い小部屋で協議。有罪で決まるかと思われたが陪審員8番ヘンリィ・フォンダ)一人が無罪票。全員一致がルールなので協議を続行。8番の反対理由は「有罪かも知れない。でも無罪の可能性のある限り話し合おう」というもの。
とにかく有罪を声高に叫ぶ3番、冷静沈着理性的な4番、早く終わりにして野球が観たい7番、観察力の鋭い老人9番、偏見に満ちて有罪を支持する10番、有罪無罪のはざまを行ったり来たりの12番等々。面倒な連中が騒ぎ立てる中話し合いは意外な方向に向かう。
疑わしきは罰せずということで全員一致で無罪評決となる。
十二人の怒れる男-5
*左から:7・6・4・2・8・10・12・5・11・1・9番*


すでに古典に分類されるのだろうか。普通に有名な作品なので題名だけでもご存知の方も多いことであろう。


劇中で11番が「何の得も無いのに見知らぬ者同士が集まり評決する。これが民主主義なんだ」みたいなことを言う。
そう。今でも陪審員制度は米国に根付いた民主主義を象徴するシステムとして国民が認識しているのだ。


彼は、面倒だから無罪にする。と言う7番に詰め寄る。「人命がかかっているのに何だ。その態度は。無罪に転向した明確な根拠を述べよ」と。
どうも11番は欧州からの移民らしい。7番が「移民」と言っていた。時計職人だ。恐らくはドイツ、オーストリア辺りからだろう。
推察するに第二次大戦中ナチズムから逃れて来たのではないかと思う。その全体主義的圧政を目の当たりにしており心の傷を負っているようだ。彼は外からの眼でこの制度を高く評価している。


そんなシステムだが恐るべきはもしも8番がいなければどうなっていたか。
常に彼がいるとは限らない。なので冤罪も成立しうる可能性も大なのである。しかしそれでもあへて市民に裁きを委ねているのだ。
十二人の怒れる男-3
   *8番と9番に説明する4番(左)*


が、その危うさすら細大漏らさずに表現しているのが面白い。
10番はベーコンの説く「洞窟のイドラ」に囚われていた。貧民街の住人に対する個人的偏見にだ。彼らは信用できず生きる価値も無いゴミ同然に分類される、という偏見。
十二人の怒れる男-4
   *10番の偏見に皆うんざり*


3番も彼の個人的経験から息子に対する苦々しさを若者全般を憎悪の対象へと敷衍して理性的判断をしたくないという心理状況に陥っていた。
十二人の怒れる男-6
      *大迫力の3番*


7番に至ってはただ面倒なので早く終わらせたい。と云う態度を隠そうともしない。
十二人の怒れる男-1
   *最初から帰り支度の7番(左)*


12番は問題に誠実に対応しておらず自信の欠如から意見が二転三転する。


かような危険分子(?)を内包するメンバーなのである。現実世界にもああ、いるいる。と苦笑せざるを得ない。

個人的偏見に囚われた者が一番厄介であることも露わにされた。
十二人の怒れる男-2

しかし互いにリスペクトし合いつつ対峙する者もいる。
司会進行の1番は休憩時に8番に近づき友好的な会話の中でさりげなく自分の職業を明かしてみせる。


4番は8番にいらつく3番に「彼は職務に熱心なんだ」と8番を擁護する発言をする。
そして11人はワイシャツ姿で汗をふきふきなのにきちんと上衣を着て背筋を伸ばし冷静に反対意見を述べる。が、有罪の決定的証拠が揺らいだ時に我意を張ることなく理性的に確信が持てぬことを認める。


さて、カメラワークが素晴らしい。狭い小部屋の中で工夫してアングルを変えつつ超クロースアップを交え緊張感を途切らせない。いい仕事をしたものだ。

十二人の怒れる男-7

脚本の出来は勿論のこと演出も見事なものだ。ただし今観かえすとややご都合主義的側面も見え隠れしてはいるが。


ちなみに黒人が一人も入っていないのも時代を感じさせる。


俳優たちも頑張った。

最後まで抵抗する3番リー・J・コッブ(『エクソシスト』の警部役)。

やる気ない7番ジャック・ウォーデン(『評決』のP・ニューマンの相棒)。

進行役1番マーチン・バルサム(『サイコ』の私立探偵)。などなど名脇役がずらりだ。

偏見に蝕まれた10番エド・ベグリー(『渇いた太陽』でオスカー助演男優賞)が力演。


最後に8番ヘンリィ・フォンダと握手して名乗り合う9番の老人ジョセフ・スィーニーも好印象だった。


理論派の4番E・G・マーシャルも好敵手の位置づけで好感したし他のメンバーもキャラが明確で楽しめる。


上映時間96分間ほとんど部屋から出ずに討論するが断然興味は失われない。緊張感の持続はハンパ無い。

これは是非ともお勧めする。自分は何度か劇場でも観ているがこれからも繰り返し観続けると思うフィルムの一つだ。


本日も最後までお付き合い下さりありがとうございました。
十二人の怒れる男DVD

12 Angry Men
監督:シドニー・ルメット
『オリエント急行殺人事件』『狼たちの午後』『ネットワーク』
撮影:ボリス・カウフマン
『波止場』『草原の輝き』『質屋』
製作:レジナルド・ローズ(兼脚本)、ヘンリィ・フォンダ