『美女と野獣』で笑うな! | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。

 

 

『美女と野獣』La Belle et la Bête ('46)と聞くと多数の人々はディズニー映画を連想することでせう。本家というか実写版のフランス映画を思い浮かべる人はなかなかの映画好きと言えると思います。

徒然逍遥 ~電子版~-美女と野獣-1

 

これは戦後間もない1946製作のモノクロ映画です。これを聞いて吃驚です。だって終戦翌年ですよ。巷にはその日の食物に事欠く市民もいたと思われます。外国からの支援があったって物資が不足していたことは想像に難くありません。そんな状況下でこのような映画を作る国家国民とは一体…。

 

なにせ「仏蘭西のエスプリ薫る心揺さぶる藝術作品」みたいな映画です。

市民が憂さを晴らすべく観に行く肩の凝らない娯楽作には見えません。もっとも戦後ですから映画自体が娯楽であり内容うんぬんの時代ではなかったという事情もあるのかも。彼らも昔から語り継がれてきた物語を普通に楽しんでいたのかも知れませんが。

 

しかしこれを観ればフランスがいかに映画を芸術として認め保護する揺るがぬ方針を有している国家であるかが多少なりとも垣間見られます。映画発祥の地としての矜持が感じられるところです。


物語は人口に膾炙している古典的お伽噺がベースになっています。

貧しい父子家庭。三姉妹の三女(ベル)は孝行娘。ベルが父親のために野獣のもとへ。彼女も好意を抱くようになる。紆余曲折を経て野獣が瀕死の状態に。しかし野獣が王子の姿に戻り二人にハッピーエンドが訪れる。


物資乏しき時代に精一杯の特殊メイク、見事な衣装とセットが用意され幻想的名場面が撮られました。

中でも印象的なのが廊下の壁から燭台を掲げる腕が生えている場面です。ラストシーンも忘れ難いですね。


徒然逍遥 ~電子版~-燭台-1 徒然逍遥 ~電子版~-燭台-2

*壁から腕が…*              *燭台を…* 

徒然逍遥 ~電子版~-美女と野獣-3
*ラストシーン特撮*

 

でも絶対に忘れられぬシーンがあるのです。
それは瀕死の野獣がベルの腕に抱きかかえられ死んでしまうところなんです。思わず爆笑しました。

 

 

何故悲劇的場面で笑いが誘発されたか?原因は池の白鳥のとった本能的行動にありました。

野獣が「ベル…ベル…」と名を呼びつつ死に絶えると腕がぱたっと倒れます。すると白鳥が毛むくじゃらの手に向かって首を伸ばし激烈な攻撃を仕掛けるのです。

 

これはガン・カモ類の水鳥にみられる反応です。例へばカルガモの子供が三日月形に切った西瓜やメロンの皮のとんがり部分や仲間のくちばし、人の手・指先に怯えてつついたり噛みついたりする行動です。

 

なので涙をさそうシーンなど我関せずとばかりに目の前に倒れこんだ毛むくじゃらの指先に激しく反応したんですねえ。

 

もし自分が監督だったら撮り直します。が、フィルム不足だったのかそれともジャン・コクトーが気にしなかったのか今となっては知る術も無し、ってことですね。


徒然逍遥 ~電子版~-ジャン・コクトー 徒然逍遥 ~電子版~-ジャン・マレー

*詩人ジャン・コクトー*    *二役ジャン・マレー*

 

個人的には白鳥にいいとこ取りされた名画として記憶されてます。


          徒然逍遥 ~電子版~-swan

La Belle et la Bête

監督:ジャン・コクトー

『詩人の血』『双頭の鷲』『オルフェ』

撮影:アンリ・アルカン

音楽:ジョルジュ・オーリック

『ローマの休日』『恐怖の報酬』『さよならをもう一度』