今日と明日は抗がん剤の日。

火曜・水曜と服用して木曜日に副作用を抑える薬を。

でも、通院の度に増量されて、何とも言えない気怠さと調子の悪さが続く。

 

服用後、私に気遣い外出を控え気味になっている亭主と娘に「どこか行こうか?」と声を掛ける。調子良くないけど、殆ど車内か無人販売の卵の自動販売機を予定して、思い切ってドライブ開始。

鉄オタ娘の希望で某駅で記念入場券を買い、そこから亭主が夕張まで更に進めてくれた。

 

無人のトイレに寄ったりしながらも、走行中の車内から娘が「メロンぐまっ!!」と叫び窓を全開にして「くま~っ!くまぁ~!!」と手を振る。メロン熊とは、こんな方。

 

 

 

中学受験前に娘が札幌で遭遇して頭を噛んでもらったら、中学入試合格したこともあり、娘にとっては大恩を感じているお方でもある。私も娘と共に何度か会っていたが、遠巻きに見ていて娘とのやり取りに笑っていただけだった。

今回、私も店内で遠巻きに見て笑っていたが、娘を丸かじりしたメロン熊は次に私をロックオンして速足で目の前まで来ると、頭を噛んで抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

「ぎゃははは!」

ただ、おかしくて笑う私。嚙みながらメロン熊は私を抱きしめてくれた。

メロン熊は温かかった。全身で体温を感じた。

温もりを感じながら、自分もこの熊も生きているんだなって思うと、何だか切なくなってくる。私はメロン熊を抱き返した。痛くて曲げられない指でメロン熊の背を掴んだ。

そして、メロン熊の口の中で私は呟いた。

 

「私ね、病気と闘ってるんだけど辛いわ。しんどい、キツイ。」

 

人様にこんな事言ったことなどなかったが、相手が熊だったのか私も油断しちまった。滝汗

するとメロン熊の咽頭奥から小さな声が聞こえた。

 

「だいじょうぶ」

 

そして、更に私を抱きしめて背中をポンポンとしてくれた。

 

優し気な男性の、静かな呟きにも似た声だった。

 

メロン熊に『中の人』など存在はしない。メロン熊はメロン熊としての固有の生物なのだから。熊が喋るはずはないし、きっと私の聞き違いか、聞こえた気がしたのだろう。

抱きしめられ「だいじょうぶ」と言われ背中ポンポンなんて、危険物取扱者の資格を持つ亭主でさえ私にはしない。でもこの熊は医者も家族も口に出来ない言葉を言ってくれた(ような気がした)。

 

「だいじょうぶ」なんて私は自分の病気に対して使うのも使われるのも大嫌いだったし、この言葉に嫌悪感すら持っていた。

「こんなに辛いのに何が“大丈夫”だよ、馬鹿野郎!」って。

でも、今日は違った。こんなにも言葉ってあたたかくて嬉しくて、一歩踏み出す力があるのかと思った。そして、自分の了見の狭さを痛感もした。

 

店を出て車に戻る途中、誰にも気づかれず泣いた。涙がこれでもかってくらい出て止まらなかった。

そして明日からまた頑張ろうって気持ちが体の内側から沸き立ってくれた。

 

 

こんな風に書くと熊の行動に「セクハラ」なんて言う輩もいるかもしれないから、メロン熊の名誉のために書いておきます。熊はちゃんと空気を読み行動している。こちら側がщ(゚Д゚щ)カモーンとわかると来てくれる。何でもかんでも抱き着いたりはしない。