家族が寝静まって、むかしむかしのテレビ版『デビルマン』第一話を久々に見ている。

近年、丁寧かつ綺麗なアニメを見ていたせいか、この時代の作品は斬新な気がして、眠い目をこすりながらも見た。アニメ化するのに、色々とあって原作とは違うそうだが、私が見ていたのは確かにこのデビルマン。気付けば何話も見ている。

懐かしさが一転して、しばし考え込んでしまったのは第36話  妖獣マグドラー 空飛ぶ熔岩 の回の終盤だった。

 

妖獣ララはデビルマンが大好きで、いつでも美樹と張り合っていた。

デーモン族らしからぬララの天衣無縫さは、子供心に重苦しく怖い作画イメージの中、彼女が登場する度に救われる思いがしていた。

だからララがマグドラーに焼かれ殺された事実だけは、心の片隅に残っていてどうでもいい時に何となく思い出しては、所かまわずアンニュイな気分に浸っていた。

今夜、何十年かぶりにその回を見たのだが……

(関係ないけど、昨日はアイロンがけしながら“サイボーグ009VSデビルマン”を見ていたw)

 

マグドラーはララを業火で焼く。息も絶え絶えながら、デビルマン(俗名・明)の名前を呼ぶ。

誰にも聞こえないララの声を明は確かに聞いて、走りながら声の主を探す。

 

そして、導かれるかのように墓地へと進む。のだが!

 

足を踏み入れた墓地には、このような墓石があった。

「山口組三代目」!?

思わず背筋がヒヤリとした。比喩ではなく本気で。

 

山口組三代目の田岡組長の自伝と、娘さんが書かれた本とどちらも私は20代前半で読んでいて、すぐにこの違和感の正体に気が付いたからだった。

 

この回『第36話 妖獣マグドラー空飛ぶ熔岩』の放送日は1973年3月17日。

三代目が亡くなられたのが1981年7月23日であり、放送時にはご存命だったのだ。

この様な職業の方であっても、存命中の方の名を墓石を描き、それを堂々と放送してしまう当時の制作関係者の考えに驚いた。

相手が反社会的勢力関係者であろうとなかろうと、これは倫理的にアウトだろうと思ってしまった。相手が悪いならリンチも許されるなど、それはもはや法治国家とは言えない。

調べてみたら、この件にネットで触れているのはお二人だけだった。

案外、有名な事案なのかも知れないが、私は遅まきながらも今、知ったので複雑な気分である。

 

でも、実はテレビの不謹慎は他にもある。

残念ながら録画したものを消去してしまったのだが、娘が生まれてから放送されたフジテレビの『志村けんのバカ殿様』シリーズの中でのこと。

バカ殿とは別モノのコントだったのだが、志村けんがお寺の小坊主を演じ、ドタバタが繰り広げられるのだが、馬鹿馬鹿しいコントのセット(お寺の本堂やお墓)の中に、卒塔婆が数本立っていて、その中に書かれている文字に、私は戦慄した。

くだらないコントの横に立っていた卒塔婆には何と『日航機123便…』とはっきりと書かれていたのだ。

たぶん、卒塔婆を集めるために、シリアスなドラマで使われたものまで数合わせのために運ばれて来たのだろう。こんな場面で、自分の肉親や大切な人の事故を思い出すような卒塔婆を目にした人の気持ちを思うと、もう笑う気力も失せ私はテレビを消した。

以降、志村けんまでもを心が拒絶するようになってしまった。

彼は今も知らずにいると思う。そう思いたい。

もしも、数合わせでそれを持ち込んだことを彼も知っていたのなら、あまりに救いがないからだ。

 

「そんな時代だったんだよ」

そういう人もいると思う。

私もそんな時代を容認して、歴史の一端として構築する側にいた。

 

小学校の頃の卒業文集で、クラスごとに流行ったものやら様々なクラスの歴史を年表として書く欄があったが、そこには「何かに失敗して立ち直れない時に言う言葉“ダメだ!水俣病だ!!”」と堂々と書かれていた。クラスは盛り上がり、当時、50代のベテラン教師もそれをチェックしてOKを出した。私は出来上がり前に担任にこっそりと「水俣病の人が嫌な思いをすると思う」と言ったが、逆に「あなたは協調性がない」と叱られ、卒業文集は水俣病患者を侮辱する文言が載ったまま、皆に配られることとなった。

私は手にしてひと月もしないうちに、それを捨てた。

納得してそれを持つことが、恐ろしい罪を犯し続けている気がしてならなかったのだ。

今のご時世ならば、新聞の三面欄を大きく飾り、ワイドショーでも騒ぎになっていただろう。

尾木ママが怒りに震えながら、コメントしている姿が手に取る様に目に浮かぶ。

あの頃の時代は好きだが、何かが狂っていたのも確かだった。

たくさんの狂気の中から、人は少しづつ正気になりながら、やっていいことと悪いことの判断を学んだのだと思う。

 

私は善人ではない。

当時の狂気を見て一緒に笑った側の人間でもある。

故に誰かを糾弾できるはずもないが、自分の狂気を忘れないためにも今回、この記事を残そうと思った。

 

反面、正直なところ、その筋の方に率直な意見を伺いたいとも思う。

当時の存命だった組長墓石をアニメのワンシーンにされたことを、どう思うのかを。

報道側(公共電波を発信する側)が、これをしては北の将軍様を糾弾する資格すらないだろう。ちなみに、これを放送していたのは当時のNETテレビ(日本教育テレビ)。今のテレビ朝日である。この後、アフタヌーンショーでやらせ放送を行い以降、自爆テロを今も続けている。