家の事情とはいえ、勝手に骨折部位につけられたギプスを破壊して、娘の通院やら付き合ったツケが今になってやって来た。

 

もう、痛みで一睡も出来なくなってしまい、朝4時に起きて光テレビでの医龍の再放送2話分を暗い部屋で痛みをこらえながらひとりで見ていた。老医師が脳の病で倒れ、更には心臓疾患もあってという強引なストーリーだったけど、岸部一徳から目が離せずに結局は最後まで見てしまった。

「医者でも誰もいない場所で倒れたりしたら、手遅れになって危ないよなぁ」

と漠然と思っているうちに空が白み始めていた。

 

今日は夕方から娘の整形外来だったが、私の足の痛みも限界で、私は早朝に代休だった亭主に朝7時半に病院に送り届けられた。総合病院で普段はサルコイドーシスで通っていたが、まさか整形までお世話になるとは……受付開始まではまだまだ時間がある。私はiPhoneを手に時間をつぶし始めた。

 

受付では整形は初診であり5時間待ちも了承して欲しいと言われたが、これまで掛かっていた病院では5時間待ちが当たり前だったので、少しも苦に感じることもなく首を縦に振った。事前の問診からいくつか診察前に検査を受けるように言われ、私は足を引きずりながらもあちこちを回った。検査を終えて、暫くは落ち着いていられると思った時だった。

 

「コードブルー 〇ブロック」

 

と、大き目の男性の落ち着いた声が館内に響いた。

と、同時にあちこちから看護師や医師がわらわらと湧いたように出てきて、その〇ブロックとやらに向かって全速力で走って行った。(〇ブロックは2階だった)私は1階だったが、頭上では上から下から右から左から、若手や研修医風のドクター、有名なベテラン医師たちが走る。看護師たちも同じだ。外来で順番待ちをしていた大方の患者は「コードブルー」の意味を知らないらしく「何だ何だ!?」と受付看護師に問う者あり、無言で見つめる者ありと様々だった。アナウンスは以降は無く、それが何であるのか、そして、その後どうなったのかも私たち外野にはわからぬまま、この件は済んだ。

 

さて、『コードブルー』とはなんであるのか。

実はこのドタバタを私は、自宅で留守番をしてた亭主と娘にラインで送っていた。

しかし、私の伝え方が甘いのか、あの緊迫感が亭主と娘に伝わることはなかった。

 

今、コードブルーと言えば山Pこと、山下智久主演の救急救命医のドラマのタイトルが有名で、この言葉自体、耳にした人が多いかと思われる。私もそうだった。2008年から昨年の3期まで欠かさずに見てもいた。

このコードブルーの単語はドラマの造語ではなく、実は病院で現実に使われている言葉なのだ。

コードブルーが発令されると病院にいる医師は専門の診療科目は関係なく集まる。そのため呼びかけるときも「○〇科の先生」ということは言わない。ではなぜ担当医ではなく診療科目を無視してその場にいる医師を集めるのか?

 

コードブルーに診療科目が関係無い理由として、医師や看護師、助手はたくさんいる方がいい、研修医、新人医師の経験の為と言った理由がある。その中でも一番のやっかいな理由は患者の倒れた原因が分からないことなのだ。

 

例えば意識不明や心停止で突然、誰かが倒れた場合。倒れた原因はこの時点ではわからない。でも、一刻の猶予もないから、まずは手の空いた医師に駆けつけてもらうと。その際にはその集合する医師の診療科目や専門は無関係。だって倒れた原因が不明なのだから。で、集合した医師たちが「これは眼科の領分ではない」「これは皮膚科の領域ではない」と、関係ない医師はその場から離れていく。最後まで残るのは心臓や脳外の医師が多いと、どこかで聞いた気がする。あと、私の毒父の様に突然の動脈瘤破裂とか。

通常は患者に異常が発覚したら、まずその患者の担当医が診察して現状を把握し自分の管轄外の異常だったらその専門医を呼んで処置してもらうという段取りになる。しかしコードブルーが発令されたら、担当に関係無く院内の医師が集合しその場で診察・処置を施す。これによってよりスピーディーに処置するこ とが可能になる。

 

コードブルーがかかった際に、診察中の医師は患者さんを待たせていいのか?と言った疑問がある人もいるらしい。これに関しては診察中の患者さんは定期的に通院していて今すぐ死ぬわけではないので、ここはやはり一刻を争う患者優先ということで。

コードブルーの患者は1分でも1秒でも惜しいし、外来患者さんの診察をしていて緊急患者さんが亡くなるのは非常にまずいので、例え結果的に行く意味が無かったとしてもコードブルーがかかったら救急患者への対応を最優先にするそうだ。(文句言う人がいる事実の方が、私は驚いた)

 

コードブルーの厄介なケースとして入院患者さんのお見舞いや外来患者さんの付き添いで来ていた方が倒れた場合、名前や年齢もわからないので一からの診察になる。今まで罹ったことのある病気、現在飲んでる薬など、すべてが不明なので入院患者より時間がかかってしまう。そのような人の場合担当医もいないので「誰を呼ぶ?何科の先生?」と考える場合ではない。急を要する場合専門医を遠くから呼んでいる余裕もないし、くも膜下出血や脳疾患の場合安易に体を動かすと命の危険を脅かしかねない。そのため館内にいる医師が全員集まって、最終的には関係のある医師だけ残る。

それから、心臓マッサージをしたり、気道確保したりといった作業の場合助手はたくさんいた方がいい。たとえ専門外の医師が来たとしても全員医学知識は 豊富なのでその場で出来ることはたくさんあるし、看護師や研修医も救急カートや機材の準備などできることはたくさんある。

 

よくコードブルーを使って医師を集めているのは総合病院や大学病院など大きな病院である。今回、私は遭遇したのも、総合病院だった。そこには学生や研修医、新人医師もいる。彼・彼女らにとって緊急現場に 立ち会えることは救命救急センターなどにいない限りない。よって先輩医師の処置を見学するだけでも貴重な経験になるので例え一人前の医師でなくても必ずコードブルーの招集は受ける。だから、あの時、白衣や紺、エンジにオペ室から飛び出て来たような緑色のオペ着フル装備の医師まで、階段を使って駆け上がり、駆け下りて集まっていたのだ。

 

その緊迫した状況を私は遠巻きながらも見ていて、結局、倒れたのが男性か女性なのかもわからぬまま、騒ぎは静まっていた。その方の無事を祈った。

 

夕方近く、亭主が娘を連れて病院にやって来た。

娘はこれから整形外来受診とリハビリを行う。足が痛くて家に戻るのが面倒になった私は、この病院で朝7時半から陽が沈むまでいた。私はコードブルーの件を話し始めたが、亭主も娘も「ふーん」的な返答しかしなかった。

亭主や娘の頭の中にもやはり山Pしか、存在していないのだと実感した。

 

ところがこの後、想像もしていなかったことが起きた。

 

眠いから続きは明日。

でも、明日も丸一日病院だわ。