話は1年ほど前にさかのぼる。

 

 

①今回亡くなったB美(敬称略)が、高齢と病気で自力で身の回りのことが出来なくなり、B美の妹であるヨシエ(私の義母・仮名)が、入院させたり生活のことをサポートしていた。

 

②そんなある日、ヨシエがB美宅で謎の茶封筒を見つけ、中を見る。そこには1億をこえる借金の督促状があった。驚いたヨシエはB美に話を聞くが、認知症を起こしているB美は「私は知らないよ」と言うだけで、話にならなかった。

 

③そんな大きな金額を請求された書面を見たことのないヨシエが焦り、何故か私の元へ「どうしょう」と連絡してきた。後日、ヨシエ宅に行き、その督促状を見るが、素人が迂闊なことも言えず、弁護士を探しヨシエと相談に出向く。弁護士は「本人が心当たりないんでしょう?もう80代後半の老婆に支払えるはずもないし、請求が来ても相手は何も出来ないし。無視していいですから。ただし、こちらからは絶対に連絡はしないでね。」と指示を受ける。今、考えるとこの時、私も気付くべきだった。B美が亡くなれば、B美は借金から逃れられるが、相続人ってのが発生するってことを。チーン

そのうち、B美は寝たきりになり、ヨシエが献身的に世話をする。督促状は届き続けたが、弁護士が大丈夫と言ったので、ヨシエも安心して放置し続けた。

 

⑤B美が亡くなったとの連絡が入る。既に亭主が施主に指名されていた。滝汗私たち夫婦は慌ててヨシエが手配した葬儀会場へ走った。通夜の読経の中、私はふと「そういえばあの督促状って……?」と思い出す。「ここからは身内で通夜を行いますので……」の挨拶の中、突然、喪主である亭主のいとこの念珠が切れて珠が四方に散らばる。遺影のB美の顔が心なしか「頼むわ」って顔をしてるように見える私。身内も揃っているし、取りあえず世間話をしながら内偵捜査を開始。

一方、自宅マンションの隣の部屋の爺さんが急死したと、連絡が娘から入る。我が家は今年度、自治会長であり、こんな時は陣頭指揮を執りマンション住人からの花の手配やら町内会へ通知してあれこれやることがある。マンションの自治会の補佐に「今、通夜で抜けられないの。友引があるからどうやらダブルヘッダーにはならないけど、電話で指示しますから動いてください。お願いします!」と電話土下座。

 

⑥酒が入り、次第に参列者の口が軽くなる。人の負債話なので皆は知っていても、この話を話題にすることはなかったらしいが、どうやらB美は自営業を営んでいた内縁の夫の保証人に『知らないうちに』なっていたことが判明。実印を使われていたので完全にアウト。この内縁の夫は既に故人であり、金を借りた人はいないわ、保証人にされた者は痴呆症だわでこれ以上、どうしょうもないとしか結論が出ない。今思えば、ヨシエと弁護士の元へ相談に行った時点で自己破産させていれば、良かったのだと思うとため息しか出ない。

 

⑦それとなく亭主とヨシエにその話をするが、あまり気にしない様子。心のどこかで「借金?B美が亡くなったから、おしまいでしょう?」と、思い込んでいるようだ。違う違うっ!相続すんだよ、財産も負債も。そう、B美には戸籍上の夫も子もない。未婚で戸籍が綺麗なまま亡くなった訳で、その場合、負債はB美の親、兄弟姉妹に行く。しかし、親はずっと前に他界。よって兄弟姉妹に行くんだが、その兄弟姉妹も亡くなっている者もいる。いや、厳密にいえば兄弟姉妹はヨシエしか存命していない。兄弟である親が故人であればその場合、その子に借金はさらに動く。借金残した故人から見れば『甥・姪』。ある程度、亭主親族の相関図を知っているんで、「ここで飲み食いして笑っている者に2億2千万以上の負債が均等に行くんだな」って思うと胸が熱くなる。滝汗

 

⑧火葬場にて二度目の念珠が切れ、こりゃ故人が警告してんだと小心者の自分は勝手に思う。ゲッソリお骨になるまで時間があるので、思い切ってヨシエのそばに行き、自分の知り得ることを耳打ちするが「大丈夫でしょう」と南国人のように大らかな返事。亭主にも言うがイマイチ、実感がなさそう。つーか、施主の役割で忙しくて2億の件まで気持ちが回らない。亭主のいとこの金融関係勤務の人を捕まえ、「実は…」と話すと、見る見るうちに顔色が変わる。筆記用具を持ちヨシエと亭主を召喚。すぐさま、ラウンジで法定相続人が何人いるかを確かめる。11人いる。萩尾望都かよ!チーン

いとこが事の重大さをヨシエと亭主に語る。この時点でふたりにやっと何が起きようとしているのかを理解してもらえた。心臓疾患と高血圧の持病のあるヨシエの顔色は悪く、本当に死んでしまいそうに見えたので思わず「大丈夫。私が何とかするから。」と宛もないのに大見栄を切ってしまう。笑い泣き

いや、もしもヨシエに何かあれば、ヨシエへの借金は私の亭主に降りかかる訳で、私的には全く他人事ではなかったのも事実。炉から出てきたアツアツのお骨を拾いながらヨシエは怒り心頭で、大袈裟ではなくマジで今にでもお骨を手で砕きそうな雰囲気があった。後で訊いたら「やれるならやりたかったわ!」と告白してくれた。死ぬまで身の回りの世話をして、挙句に桁違いの借金を残されたヨシエの気持ちを思うと切なくなる。「誘ってくれたら、私も一緒にお骨を粉砕していたかも」と私が言うとヨシエは力なく笑った。

 

⑨葬儀会場へ戻り、骨上げ法要も終え帰り支度を始める身内。ヨシエは「たまさん、みんなに説明して。私はもうムリ。」と言う。で、昨日のブログへとなった訳。

 

みんなおばにあたる人が亡くなったって認識だし、借金と言っても自分には関係ないって思っていたけど、相続人ルールを説明してひとりひとりを指名すると、呼ばれた者は亡くなって棺に入っていたB美おばさんよりも顔色が悪くなっていた人もいた。

 

でも、人間ってのは、自分に危機が訪れていても「大丈夫。自分が被害を被る訳がないフィルター」ってのが脳にあって、あまり危機を感じないそうだ。この場のヨシエと金融関係のいとこ以外の9名は、まさにそんな感じだった。

 

「もう相続放棄して借金をバックレるしかないです。期限は今から三か月以内。三か月を超えると相続放棄は出来ませんから。」

私のこの言葉を背に、皆が帰宅。さぁ、これから策を練らないと……普段使ってない脳が久々に動き始める。私だって実父が死んで相続放棄してなきゃ、ここまで考えは及ばなかったと思う。

 

まずはこの人を疑うことのない、善意の塊のような一族に今、我が身に起きていることを理解してもらわないといけない。借金よりも、こちらとの戦いの方が手ごわい気がした。

 

繰り返す、これは作り話ではない。

This is not a drill. I repeat, this is not a drill. This is not a drill.

つづく……かも。滝汗