得意料理ある? ブログネタ:得意料理ある? 参加中
先日のこと。
大切な親友宅に家族として暮らしていたチワワ君が病のために亡くなられた。彼らが同居を始めた頃からチワワ君も家族として迎えられて、私ら夫婦は親友夫婦にチワワ君の三人家族という認識をしていた。そのうち、娘さんも誕生され四人家族で賑やか・和やかに過ごしていた。しかし、物事には永遠など存在はしない。
そのチワワ君が亡くなられた。高齢の上、病も抱えて小さな身体で、本当に力尽きるまで病と闘い続け命は消えた。
ネコ10匹を飼い、病気や高齢でネコたちを次々とあの世へと送り出した私たちにとっては、それは決して他人事でも単なるペットの話でもなかった。チワワ君を寝ずに介抱し見送った親友妻が心配になり私は訃報を聞いて、直ぐにバスに乗って駆けつけた。

彼女は憔悴しながらも気丈に振る舞っていた。でも、僅かに何かがあれば彼女はすぐにでも倒れてしまうことだけは、ニブい私でも理解出来た。けれども、大切な命を失った者を即座に救う手立てや言葉など神父でも坊主でもない私には何もない。恥ずかしながら、結局、私は何もできずお邪魔しただけだった。
すっかり暗くなって、本来は残業のあるはずだった亭主が定時で仕事を切り上げ帰宅。娘を伴い親友宅へ私を迎えに来てくれた。
冷たい亡骸となったチワワ君に亭主と娘は手を合わせる。元来、会話が苦手な亭主は私以上にその場で術もなく、僅かに会話を交わして直ぐに親友宅を後にした。

「○○君も、本当は残業で深夜帰宅だったそうだけど、亡くなったことを聞いて大切な会議に出席して、他はキャンセルして帰宅したんだ……
家へ入るなり、花で飾られた祭壇からチワワ君を取り出して、抱きしめてずっとずっと泣いていた。男ってつくづく損だと思ったよ。○○君もアンタと同じでしっかりと働いて稼いで家庭を安定させることで、女房子供やチワワ君に自分にしか表現のできない愛情を惜しみなく与えていたんだからね……女って自分の思いを割と延髄反射で口にするけど、男って……難しいし悲しささえ感じるね」
帰りの車中、私は亭主にそう話した。が、亭主から明確な会話の返事はなかった。
帰宅して、遅い晩飯を家族で食べた。私はペット霊園を予約してあり、翌日の火葬にも立ち会うと言ってあったので、身体を休めていた。(重症筋無力症は休み休みでなければ動けない)
けれども、休む私の視界の端っこをチョロチョロと亭主は動いている。
「落ち着かねーなぁ。何、してんだよ?」
怪訝そうに語尾が上がる私に亭主は、黙々と作業を続けていた。そして……
深夜、亭主はついに3本のチョコレートパウンドケーキを完成させた。
「この上手に出来た2本は明日、○○君宅に持って行って。明日は他にも世話を焼いてくれる友達さんも来てくれるそうだから、○○君の所と友だちさんにと均等に分けて欲しいんだ」
目の前には腹が立つほど上手に出来ているパウンドケーキが3本。説明を終えた亭主はさっさと自室に籠り寝てしまった。
翌日、私は再びバスの旅を経て親友宅へ向かった。パウンドケーキを携えて。親友妻も一緒に火葬場に来た親友の親友もそれを喜んで受け取ってくれた。
(残り1本は私の分だった。どうやら、私がそのケーキを搾取するのではとの懸念があったらしい。おい、私は磯野カツオかよっ!)

結婚して間もない頃は確か、私がレモンパイやらあれこれ手間暇を惜しまず作っていた気がする。けれども、メッキはすぐに剥がれた。あまりに何事も大雑把な私の姿に、亭主はついに妻に期待をすることを諦め、自らが作ることを答えとしたのだ。
そのうち、私があれこれ病気に犯され、亭主の「自らの食を満たす料理」は「妻を癒し慰めるための料理」になっていた。そして、娘が生まれ「お父さん、美味しいよ!」の声に亭主の料理は暴走を始め、ついには自分専用の中華鍋に圧力鍋までもを購入。休日には活躍させている。(私はどちらも使えない)
憔悴した親友の姿に亭主もまた、掛けるべき言葉を持ってはいなかった。しかし、憔悴して辛そうな親友夫婦に何か少しでも口にして、元気にいられるようにと亭主はパウンドケーキを作って私に託してくれた。久々に亭主が凛々しく見えた瞬間だった。あのパウンドケーキには、親友を気遣ういく千万の言葉が詰まっていたと今は素直に思える。

さて、この親友妻とはつい最近、こんな会話を交わしていた。
私「ねーねー、カニクリームコロッケって家で作る?」
友「ダメダメ。爆発するもん」
私「そうだよね、どうしてうまくいかないんだろうなぁ?」
友「もしかして、熱した油鍋に一度に大量投入してます?」
私「うんうん、するする。どうせ揚げるんだし、一つもたくさんも一緒だしね」
友「そうそうそうそう!!いっぺんに入れた方が時間短縮だし」
彼女には敵わないことがたくさんあるが、料理に関してはこの会話で互角だと思い安堵した。

で、私の得意料理だが、ホットケーキミックスを牛乳と卵で溶いて、そこへ1個98円(消費税別)のリンゴジャム(角切り入り)も全部一気投入し、ごたごたに混ざったものを炊飯器に入れて炊飯のスイッチを入れる。で、出来た名もない大雑把ケーキが最近唯一覚えた、亭主への対抗食である。
私「美味しい?」
「……う~ん、大雑把な味がするね」
亭主は最初の一口として頬張ったものだけは、責任を感じ飲み込んでくれたが、以降は全く手を付けようとはしなかった。