私が手術室で錯乱している頃、妻と娘は家族控え室にデジタルカメラを携えて現れた主任教授から手術の経過説明を受けていました。

以下は、妻から伝え聞いた内容です。


教授のデジタルカメラには、開腹した状態でニキビのような小さな腫瘍が腹腔内に飛び散っている画像が写っており、この腹膜播種は遠隔転移であり手術不適応となるため閉腹せざるを得ないこと、今後の治療としては化学療法で抗がん剤投与を速やかに開始すべきとの説明を受けていました。


説明を受けて妻は茫然自失となりましたが、娘は持ち前のリサーチ力を発揮して即時ネットで腹膜播種のことを調べ始め、事態の深刻さをいちはやく察知します。


そこで医師向けに発行された「腹膜播種診療ガイドライン」をダウンロードして読み込み、先進医療の臨床研究(腹腔内化学併用療法)が現在実施中であることを数時間で突き止めます。

(幼い頃から、購入したばかりの家電製品や電子機器の「取扱マニュアル」をたちどころに読み込み、即時操作に習熟する様子を目の当たりにして、親バカながら「凄い能力だな」と感心していました)


病院から帰宅後、さっそく主要な大学病院に電話で問い合わせを開始し、当該治験の中心となっているのはT大学病院であることに辿り着きます。


ところが当日は金曜日で17時過ぎたため電話が不通となりT大学医学部宛に事情と治験参加希望を説明したメールを送信したところで、激動のクリスマスイブは終わりを迎えました。


試験開腹の一報」は、根治治療が可能だと思っていたのに突然延命治療への変更を宣告されることを意味するので、本人だけでなく家族にとってもその衝撃は極めて大きかったのです。