さすがに反省をした。
たかだか1000馬力(1000万円)にも満たない容量で勝負したがため、急加速に耐えきれず自己崩壊したようなものである。

同じ徹を踏まぬよう、今度は1000万円以上の軍資金をかき集め、十分なパワーを持って取引に臨んだ。

取引枚数は200。これなら3円の跳ね返りで損失を取り返せる。おそらく1週間いないに取り戻せるだろう。

そして、仮に下落したところで今から5円以上も下がるはずは相場の一般的常識として有り得ないことだ。

そんな当たり前の確信を持って取引を再開した。

人生によもやの分岐点があるとも知れず・・・。

これほどの大金が一瞬にして消えたことはさすがに非情事態であった。

そのあとの仕事は当然のごとく全く手に付かなかった。


しかし、、、しかしながら、数時間後、一度奈落に落ちた意識から何とか立ち直り、

次の手を考え始めた。まだ、戦う気力は残っていた。


「日に数円も落ちるなんて、滅多にあるはずがなく、数時間経った今ではもう、

値が戻ってきているではないか。ここ何カ月かの豪ドルのトレンドからすれば、

この調子ですぐに値を戻すだろう。

本当の金持ちならば、いま、この下落した状況で勝負に出て、買いを拾い、

大儲けするのだろうな。そこが一般庶民との違いだ」


この時、確かに大損はしたが、まだ戦う力は尽きていなかった。

まだ資金は十分にあったのである。


実は、1社のみでの取引の危険性と言うのを聞いていたので、もう一社、

取引口座を持っていたのだ。

いわばダブルエンジン。

そこには毀損を免れた無傷の資金が残っていたのである!


片方のエンジンが吹き飛んだとは言え、もう一基、エンジンはある、

今こそ使おう。


セカンド・エンジンに点火をした。

資金投入してからも、数分のうちに何度もアラートメールが送られ、

数字の動きをじっと凝視していた。生きた心地もなく。

何度も、あきらめと助かった気持ちが交錯した。


そして、15:59:29 来るべき時が静かに訪れた。


初めてのロスカット強制執行。

凝視している画面から、数字が消えていった。

たった1日で、600万円が消えてしまった。

結果的に朝からつぎ込んだ100万円は何の意味もなく、

ただ、傷口を広げただけであった。



しかし、

周りはいつも通りのオフィスの風情である。

誰一人として悲鳴など上げている人はいない。

電話の音と、笑い声と喧騒。


上司は全く悪気もなく声を掛けてくる。

「この案だけどさあ、いいんだけどもうちょっと表現変えて、

くれないかな。ここで勘違いして欲しくなくてさあ」


「はい、わかりました、見直します」


いつもの風情を装うのが精いっぱいだった。

一体だれがこの一瞬で年収に匹敵する額をなくしたと

思うだろうか。