2025/12/2

 

日銀の利上げが世界不況の一端となりうる可能性に関するレポート

長らくデフレと闘い、世界の中央銀行の中で唯一大規模な金融緩和を維持してき日銀が、賃金上昇と物価安定の好循環を見極め、利上げに踏み切る可能性が高まっています。

この政策転換は、単なる国内経済の正常化プロセスに留まらず、世界の金融市場が抱える構造的なリスクを顕在化させ、世界的な景気後退(不況)を増幅させる一端となりうるという懸念が指摘されています。


💹 核心的な懸念:円キャリー・トレードの巻き戻し

日銀の利上げが世界不況のリスクを高める最大の理由は、長年の超低金利政策の下で積み上げられた「円キャリー・トレード」の巨額なポジションが一斉に解消(巻き戻し)される可能性です。

1. 巨大なポジションの存在

世界中のヘッジファンドや機関投資家は、調達コストがほぼゼロの円を借り入れ、より高い利回りが得られる米国債や欧州株、新興国資産などに投資してきました。このポジションは極めて大規模であり、市場は低金利の円資金に依存する形で運用されてきました。

2. 利上げによるリスクの顕在化

日銀が利上げを行い、円の借入コストが上昇すると、キャリー・トレードの魅力である金利差(キャリー)が縮小します。さらに、利上げは将来的な円高リスクを高めます。

投資家にとって、借りた円の価値が上がってしまう(円高)と、運用益を上回る為替差損が発生するリスクが高まるため、損失を確定する前にポジションを解消しようとする動きが強まります

 


🌍 世界市場への具体的な波及効果

このキャリー・トレードの巻き戻しは、以下のプロセスで世界の金融市場を揺るがします。

1. グローバルな資金の引き揚げ

巻き戻しのために、投資家は海外に投資していた米ドル建て、ユーロ建てなどの資産を大量に売却し、円を買い戻して借入を返済します。

これにより、世界の株式や債券市場から資金が急速に流出し、世界的な株価・債券価格の下落圧力が発生します。特に流動性が低く、高利回りの新興国市場は大きな打撃を受ける可能性があります。

2. 世界的な金融引き締め効果の増幅

海外資産の売却は、米国債などの価格を下落させ、世界の長期金利を押し上げる効果を持ちます。世界の中央銀行が既にインフレ抑制のために高金利政策を維持する中で、日銀の政策転換が間接的に世界の金利をさらに押し上げれば、グローバルな金融引き締め圧力が一段と強まり世界景気の減速を加速させる要因となります

 


📉 結論:不況の引き金ではなく悪化要因

日銀の利上げが直ちに世界不況の「引き金」となるというよりは、すでにインフレと高金利に苦しむ世界経済の減速局面において、その混乱と深刻度を悪化させる要因として作用するリスクがあります。

円キャリー・トレードの解消に伴う資産価格の急落と資金流出が、投資家のリスク回避姿勢を強め、世界的な景気後退懸念を現実のものとする可能性は十分に考慮されるべきです。

 

 

【おまけ】

💰 円キャリー・トレードを分かり易く説明します

ここでは、ある国際的なヘッジファンドが、金利差を利用して利益を上げようとするシナリオを想定します。

📊 前提条件(金利環境)

項目 日本円 (JPY) 米ドル (USD) 備考
短期金利 0.5% 5.0% 年間の借入・運用コスト
為替レート ¥150 / $1   取引開始時のレート

ステップ 1:円を借りる (調達)

ヘッジファンドは、調達コストの安いを選びます。

  • 行動: 日本の金融機関から150億円を年利0.5%で借り入れます。

  • 年間借入コスト: 150億円✕0.5% = 7,500万円

ステップ 2:ドルに交換し、高金利資産に投資する (運用)

借り入れた円をドルに交換し、高金利の米ドル建て資産に投資します。

  • 両替: 150億円を、為替レート(¥150/$1)で1億ドルに交換します。

  • 投資: 1億ドルを年利5.0%の米国債に投資します。

  • 年間運用益: 1億ドル✕5.0\% = 500万ドル

ステップ 3:利益(キャリー)を確定する

1年後、投資家は「円の借入コスト」と「ドルの運用益」の差額を計算します。

1. 金利差による利益の確定

  • ドルの運用益: 500万ドル

  • 円の借入コスト: 7,500万円

ここで為替レートを考慮せずに、金利差(キャリー)を計算します。

 

年間純利益(為替変動なしの場合):500万ドル― (7,500万円/為替レート) =利益

 

もし、1年後の為替レートが変わらず ¥150/$1 のままだったと仮定すると:

項目  円換算   ドル換算
ドルの運用益 (A)  500万ドル✕150 = 7.5億円   500万ドル
円の借入コスト (B)  7,500万円   50万ドル
年間純利益 (A - B)  6.75億円   450万ドル

 

この金利差による純利益(450万ドルまたは6.75億円)が、キャリー・トレードの基本的な目的である「キャリー(持ち運び)」の利益となります。


⚠️ キャリー・トレードのリスク:為替変動

キャリー・トレードの最大の落とし穴は、為替レートの変動です。金利差による利益は確定しても、取引終了時(円を返済するとき)に円高になっていると、利益が吹き飛ぶどころか、損失が出る可能性があります。

📉 失敗例:円高になった場合

1年後、日銀の利上げ観測などにより円高が進み、為替レートが ¥140 / $1 になったと仮定します。

  1. 投資元本は、1億ドル(¥150億)から1億ドル(¥140億)に目減りします。

    • 円高による元本評価損:150億円-140億円 = 10億円

  2. 最終損益の計算:

    • 金利差による純利益: +6.75億円

    • 為替変動による損失: -10.00億円

    • 総合損益:       -3.25億円の損失

このように、金利差による利益があっても、それを上回る円高(借りた通貨の価値の上昇)が発生すると、キャリー・トレードは大きな損失を生むことになります。

日銀の利上げ観測が高まると、この「円高による損失リスク」が高まるため、投資家は急いでポジションを解消(巻き戻し)しようとするのです。

 

いかがでしたか?

幸か不幸か、日銀が日本経済を守ろうとするがゆえの低金利政策は、世界中のファンドや企業に低リスクの投資機会を与え恩恵をもたらしてきました。

しかし、日本が財政正常化に舵を取ることで、世界中の金融業界は楽に稼げる手段を失い、結果として収益悪化から不況への歩みを進めてしまうという、なんとも滑稽な転落劇を演じてしまうのです。

そして、この誰も望まない状況が起きつつあるのが現在ということです。

『利上げ』『円高』この2つのキーワードには注意を払って投資に取り組んでゆきましょう!Happy Trading !!