まったくもって不確かな記憶なのですが、
私が「定婚店」という話を知ったのは、高校の教科書でだった
・・と思う。

歴史と孔子と孟子と老荘思想くらいしかない漢文の教科書に、
ラブロマンスと言っても過言ではない「定婚店」が
本当にあったかどうか・・今となっては裏付けのしようもないの
ですが(イヤ、押し入れの奥の奥にある、高校の教科書の箱を
引っ張り出せば分からないでもないが、それが開かれることは
恐らくないであろう)。


定婚店。
 ある男(中国人。当たり前か)が、自分の妻を得るために
ある町へやってきた。
朝早く着いたために店などはまだ開いていない。
フトみると、道の脇に老人が座ってブツブツと言っている。
閑つぶしのつもりで老人に近寄ってみると、どうやらその老人は
人間界の者ではなく、天上に住む人だった。そしてその老人が
この世の結婚をつかさどる役を担っていると。

そこで男は老人に、自分の妻がどのような女性であるかを聞いて
みたところ、
「おまえの妻となる人は、この先に住む野菜売りの老婆の孫娘で、
今年4歳になる娘だ」と言う。

この男、そこそこの名家の出身で、当然自分の結婚相手も
名の通った家の者であることが条件だったので、
「野菜売りの老婆の娘」と聞いて落胆し、人を使ってその
老婆と娘を殺してしまおうと考えた。殺してしまえば、そんな娘との
縁も切れるだろうと目論んだのです。

けれど暗殺計画は、娘の額に傷をつけただけで失敗に終わった。



それから十数年後。
出世はしたけれど、相変わらず縁なく独り者で過ごしていた男は、
仕事の才を買われて、ついに上司の娘を嫁にすることになった。
17,18の花の盛りの美しい娘を見ると、額に小さな傷がある。
傷の理由を尋ねると、
「私がまだ幼いころ、乳母と一緒にいたところを刺客に襲われて
九死に一生を得ました。その時の怪我の傷が今も残っているのです」
と答えた。

男は驚いて、その時の刺客を差し向けたのは自分で、それは
老人の言葉に落胆したからであり、とても後悔をしている・・と
打ち明け、男と娘は不思議な縁を感じ、より一層むつまじく
暮らしましたとさ。




というお話です。
ね、ロマンチックでしょ♪



ちなみに、今はもう死語になりつつありますが、
結婚式の時に立てる仲人さんのことを“月下氷人”とも言いますね。
“月下”と“氷人”のどちらにもエピソードがあって、
この定婚店に出てきた結婚をつかさどるという老人が
“月下老人”なのです。朝早く=月がまだ残っている頃に地上に
いらっしゃったからそう呼ばれているのでしょう。