今日のビル・トッテン氏訳、「Germany’s Lose-Lose Proposition(ドイツの誰もが損する提案)」。今月7日、中国、投資、そして世界の未来について執筆している米国の起業家、サイラス・ヤンセンCyrus JanssenのSubstack、Cyrus’s Newsletter掲載記事。
ベルリンの自滅的な政策と「チャイナ・ショック」は、ドイツ企業に厳しい選択を迫っている: 国を救うか、企業を救うか
ドイツは絶望的な状況にある。国全体を俯瞰すると、あらゆる方向から引き裂かれているように見える。国内では、極めて不人気なフリードリヒ・メルツ首相が、さらに不人気だったオーラフ・ショルツ首相の後任となった。メルツとショルツはドイツの伝統的な与党である中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU)と中道左派の社会民主党(SPD)の出身である。しかしこれらの政治体制の柱は衰退しつつあり、政府が国の危機への対応に度々失敗してきた結果、両陣営のより過激な政党に支持を奪われつつある。
経済面では、ドイツの雇用庁によると工業経済は毎月1万人の雇用を失っている。統計開始以来初めて、昨年ドイツの製造業は国の経済に占める割合が20%を下回った。業界リーダーたちは、ドイツの労働文化、エネルギーコスト、そして官僚主義が国の競争力を損なっていると指摘している。
10月28日の最新世論調査によると、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相の支持率は25%に落ち込み、政権樹立以来最低を記録した。
ドイツは何十年もの間、世界トップクラスのエンジニアリングと製品に支えられ、ヨーロッパ流ワークライフバランスを実現してきた。国際労働機関(ILO)の統計によるとドイツ人の平均週労働時間は29.6時間で、米国は36.1時間、中国は44.8時間である。今、その労働倫理は、ドイツの競争力ある産業力に打ち込まれた多くの釘の一つに過ぎない。
中国人労働者は労働時間がはるかに長いだけでなく、数十年にわたる人的資本とインフラへの投資により、ほぼすべての産業分野でドイツに匹敵か追い抜いている。一般的な認識とは異なり、中国が製造拠点として選ばれているのは、賃金が低いからではなく、高度に訓練されたエンジニアと熟練した製造業者が多数存在するからなのだ。AppleのCEO、ティム・クックは、Apple製品の製造に必要な高度なスキルを持つ労働者を探す際、中国では優秀な人材でフットボールスタジアムを複数埋め尽くせる一方で、米国では同じ専門知識を持つ人材で1つの部屋を埋めることさえ難しいだろうという発言をしたのは有名である。
最後に、ドイツ経済を圧迫している最大の要因は、おそらく同国の電気料金だろう。米国や中国の約3倍も高い。これは全国的な原子力発電所の段階的廃止とロシアのガス供給の崩壊という二重のショックが直接的に招いた結果である。
これらの要因が重なり合い、わずか10年で両国の貿易関係は完全に逆転した。2015年10月、ドイツは中国に対して6億3000万ドルの貿易黒字を計上していた。10年後の2025年10月には17億8000万ドルの赤字に転落し、過去10年間で338%の変動を記録した。中国税関データに基づく計算によると、今年の最初の10か月だけでも、中国の対ドイツ貿易黒字は前年比121%増となった。ピーク時のドイツから中国への輸出の減少は、すでにGDPの約1%に相当する。
中国の台頭は外的ショックだったが、これらの失敗の多くは自滅的な政策によって引き起こされ、悪化してきた。ドイツ指導部は、国家の工業力低下に対抗するための長期戦略を策定する能力が全くないことを示した。おそらく地球上で、ドイツほどイデオロギーと旧来の西側主導の世界秩序に固執する国は他にないだろう。過去5年間は、劇的な変化の時代だった。BRICSの台頭、そしてウクライナや中東における戦争は、一極世界に大きな亀裂を生じさせた。中立的な立場からみればこの新たな地政学的現実は明白なものだが、ドイツは現実から目を背け、崩壊しつつある西側諸国への圧力を強めることを選んでいるのだ。西側リーダーである米国は、自らこの考え方を放棄し、欧州の同盟国から距離を置く姿勢を繰り返し示してきた。
ウクライナ戦争は大陸に壊滅的な打撃を与えている。ドイツは、ロシアを正当な懸念を持つ正当な当事者として認める代わりに、外交を放棄し、相手側との対話を拒否し、余裕がないにもかかわらず自国の軍事力強化に舵を切ることを誓っている。
ボリス・ピストリウス国防相は、2029年までに国防費をGDPの3.5%に引き上げることを約束した。
かつて経済を支えていたロシア産の安価な天然ガスという生命線を既に断念したドイツは、衰退するアメリカの影響力に対抗するため、中国との緊密な関係構築に目を向けることもできたはずだ。しかし、ドイツはその選択肢さえも断念した。
ドイツの大手ブランドの多くは、製造と中国の消費者市場の両面で中国に大きく依存している。両国間で何らかの代替協定が締結されない限り、ドイツの大手企業、ひいてはドイツ経済全体は、二者択一のジレンマに陥る。ドイツの産業低迷を補うために生産拠点を国内に戻すか、ブランドを守るために中国に留まるか、である。国内に戻ればアジア市場を失い、より効率的な中国のライバル企業に屈することになる。中国に留まれば、現地の人材、サプライチェーン、そして消費者を活用することでブランドは維持できますが、ドイツの製造業はさらに弱体化する。このジレンマに直面したドイツ企業の多くは後者を選択した。
ブルームバーグの最近の記事「ドイツは中国で儲けすぎており、今さら撤退することはできない」は、政府の中国回帰願望と、企業が生き残るためには中国に留まらなければならないという決定的な経済的現実との間の大きな乖離を浮き彫りにしている。フォルクスワーゲンは先月末、電気自動車を他の地域の半分の価格ですべて中国で生産すると発表した。自動車から化学製品まで、同国最大の輸出企業は政府の嘆願を無視し、世界第2位の経済大国との運命をさらに密接に結びつける新たなプロジェクトに数十億ドルを注ぎ込んでいる。メルカトル中国研究所によると、ドイツ企業の中国への投資は2023年から2024年の間に13億ユーロ(15億ドル)増加し、57億ユーロに達するという。
中国瀋陽にあるBMWの生産工場。これはドイツが近年、同国に数十億ユーロ規模の投資を行っている事例の一つだ。
「チャイナ・ショック」と、数十年にわたるドイツの産業優位性の終焉は事実上避けられなかったものの、現在の戦略は際立ったパラドックスを呈している。伝統ブランドを救済するため、ドイツ産業界はまさにその王座を奪った中国への投資を強化せざるを得ない状況にあるのだ。
ホオジロガモ(雄)
