昨日、オーストラリアのPearls and Irritationsに掲載された、「The growth of Chinese soft power, and the decline of America's(中国のソフトパワーの成長と米国のそれの衰退)」。執筆は、香港大学とオーストラリアのモナシュ大学で法学教授を務めていたリチャード・カレンRichard Cullen。
中国の技術力、製造業、そして発展の実績がその魅力を高めている一方で、数十年にわたる戦争や政治的混乱が米国の地位を蝕んでいることから、世界的な世論は中国へと傾きつつある。
19世紀および20世紀の大部分において、中国の歴史は著しく厳しい経験に支配されていた。イギリスが主導したアヘン戦争(1839年~1842年および1856年~1860年)は、清王朝にとって屈辱的な敗北をもたらした。その後も、略奪的な外国の侵略が相次いだ。さらに、日清戦争(1894年~1895年)で日本が中国に勝利し、台湾を中国から奪った。
1911年の中国革命と清王朝の崩壊後、弱体化した政府と軍閥政治――それが内戦へとつながった――に加え、日本による極めて残虐な中国侵攻が行われた。1945年に日本が敗戦すると、内戦が再開された。中国共産党(CPC)はついに国民党(KMT)を打ち破り、1949年10月1日に中華人民共和国(PRC)の成立を宣言した。
米国を筆頭とする多くの西側諸国は、中華人民共和国の承認に非常に時間を要した。中華人民共和国成立後の最初の数十年、毛沢東は「大躍進」(1958年~1962年)に起因する恐ろしい飢饉、そしてその直後に起きた極めて暴力的で社会を混乱させた「文化大革命」(1966年~1976年)の時期を統率した。
1978年12月、新たな最高指導者となった鄧小平は、中国の現代的な開放政策を発表し、中国における並外れた、そして現在も続く変革が始まった。
ソフトパワーの本質と影響
BBCは最近、「現在、世界中でより多くの人々が米国よりも中国を支持している」と報じた。この見出し記事は、米国に拠点を置くピュー・リサーチ・センターによる世界規模の調査結果を解説したもので、同センターは今年2月から5月にかけて36カ国で4万2000人を対象に世論調査を実施した。ピュー・リサーチ・センターがこのような結果を記録したのは今回が初めてである。
私が『チャイナ・デイリー』紙で中国のソフトパワーの着実な台頭について初めて執筆したのは、ほぼ3年前のことだった。その直前に、米国の著名な下院議員であるラジャ・クリシュナムルティ氏が、雑誌『フォーリン・ポリシー』で「米国は中国とのソフトパワー競争に負けるわけにはいかない」と警告していた。
私は、地政学における「ソフトパワー」に関する説明のほぼすべてが、ハーバード大学の政治学者(故)ジョセフ・ナイによる画期的な分析に依拠していることを指摘した。ナイは1990年の著書『Bound to Lead: The Changing Nature of American Power(リーダーシップの必然性:米国の影響力の変容)』でこの用語を提唱した人物である。当時、ナイは次のように記していた。「ある国が、他国に自国が望むことを望ませる場合、それは、他国に自国の望むことを実行するよう命じる『ハードパワー』や『指揮型パワー』とは対照的に、『協調型パワー』あるいは『ソフトパワー』と呼ぶことが出来るだろう」。
その約1年後、『チャイナ・デイリー』紙で、私は中国のソフトパワーが継続的に高まっていることが明らかである理由を概説した。この記事は、雑誌『フォーリン・アフェアーズ』に掲載された、イェール大学がさまざまな発展途上国を対象に実施した調査に関する報告を参考にした。同大学の調査では、中国に関する基本的な情報をより多く提供された後、回答者の過半数が、中国の体制について「(米国の政治モデルよりも)より市民の要望に応えやすく、成長をもたらす能力に優れ、驚くべきことに、より民主的な性格を備えている」と結論づけたことが確認された。
最近の動向
それ以来、中国の革新的な製造業は、世界中の消費者にとって直接的・間接的に有益な数多くの分野において、その先駆的な役割をさらに強めている。その例としては、グリーンエネルギーインフラのあらゆる側面を推進する極めて重要な貢献、物流・海運の著しい改善、手頃な価格の電気自動車(EV)や一般自動車、そしてオープンソース/オープンウェイトで低コストなAIエージェントなどが挙げられる。これらは、時代の波に乗り遅れ、不機嫌になっている一部の欧米の批評家たちから「AI共産主義」と揶揄されている。
また、中国は依然として、衣類、玩具、金物、建築資材、コンピュータ、携帯電話をはじめ、マクロレベルでは巨大なトンネル掘削機に至るまで、コストパフォーマンスに優れ、需要の高い消費財を幅広く供給し続けている。
このように、中国は世界中で、数百万人の日常生活を着実かつ手頃な価格で改善する製品やサービスを、驚くべき規模で提供し続けている。
そして、それは「グローバル・サウス」に限ったことではない。UCLAのクリス・タン教授は、最近の『チャイナ・デイリー』紙に掲載された「実用的なテクノロジーの力:中国が世界のAI競争で優位に立つ理由」と題する記事の中で、このソフトパワーの台頭の一側面を鮮やかに描き出した。タン教授がパリに到着後、空港から移動した際に乗ったのは、中国の電気自動車(EV)だった。多言語を話すルーマニア出身の移民である運転手は、最近メルセデスを売却し、BYDの「Seal」を購入したと語った。その理由は、この中国製EVの方が安価で品質も優れており、維持費もはるかに経済的だからだという。さらに、中国は自分のような一般市民に利益をもたらすようなことをしていると感じていると付け加えた。
基準の浸食
1990年にナイ教授がソフトパワーに関する著書を執筆した当時、彼の見解では、米国こそがそのような力を育成し行使する方法の模範であり、この点については間違いなく正しかった。米国には、あらゆる英語圏メディア分野における米国の世界的な支配力に表れている並外れたマーケティング能力と結びついた、自国を語るにふさわしい驚くべき物語があった。
しかし、それ以来、米国のソフトパワー優位性を主張する根拠は著しく損なわれてしまった。さらに、今日では、1990年代には可能だったような方法で、米国主導の恐ろしい好戦的な現実を、いかなる西側の政治的マーケティングでも覆い隠すことは出来なくなっている。
今年3月、私は、ドナルド・トランプが初めて大統領に選出された2016年以降、米国が経験した惨憺たる10年間について書いた。また、この「米国ブランド」の急速な劣化の土台が、2009年以降のオバマ大統領によって築かれたこと、そしてバイデン大統領がホワイトハウス在任中にこの後退を著しく増幅させたことを指摘した。その典型的な例が、2023年10月にハマスがイスラエルに対して恐ろしい攻撃を仕掛けた後、イスラエルがガザに対して抑制のきかない、ジェノサイド的な攻撃を繰り広げていた最中に、バイデンがイスラエルへ飛び、ベンヤミン・ネタニヤフ首相と公の場で抱擁を交わした出来事である。そのたった一度の抱擁によって、バイデンは米国の世界的な政治的信頼性を致命的に貶めてしまった。
今年5月、ハーバード大学のスティーブン・ウォルト教授は『フォーリン・ポリシー』誌に記事を寄稿し、トランプ大統領が「米国のソフトパワーの終焉」を加速させたことを論じ、「米国は自らの国際的な強みの核心の一つを放棄してしまった」と結論づけた。その少し前、英国の『プロスペクト』誌に寄稿したサーシャ・マッドは、「トランプは米国のソフトパワーを破壊した」と述べた。
さらに最近では、シカゴ大学のロバート・ペープ教授が、イスラエルの主導によりトランプ大統領がイランに対して――またもや――戦争を仕掛けるという決定について、次のように評した。「なんて愚かな、愚かな戦争だ」と彼は言った。「信じられない、なんて馬鹿げた、愚かな戦争だ」。
同時に、『ガーディアン』紙に寄稿したピーター・ベイナートは、「トランプ政権における愕然とするほどの汚職、そして彼の政策が助長した不道徳なほどの富の格差」を指摘した。
ソフトパワーの評価
当然のことながら、中国のソフトパワーの台頭に関する報道の多くは、その台頭が米国のソフトパワーという基準とどのように比較されるかについて論じている。したがって、ますます多くの評論家が指摘する、現在の米国のソフトパワーの深刻な崩壊は、ソフトパワーの帳尻が合う中で、今日の中国にとって有利に働いている。
しかし、この要因が重要であるとはいえ、中国のソフトパワーが繰り返し高く評価されているのは、中国国内および世界的に明らかである、中国の並外れた長期的な実績に基づく正当性に、はるかに深く根ざしている。
この目覚ましい成果に関する根本的な説明を以下に示す。
カーター大統領によれば、軍事予算が(少なくとも)次の9カ国の合計を上回り、世界中に800近くの軍事基地を擁する米国は、その歴史を通じて繰り返し世界規模の戦争に関与して来た。特に第二次世界大戦終結以降はかつてないほどその傾向が強まり、とりわけ中東では恐ろしい事態が繰り広げられている。
一方、中国では何十年にもわたり、「戦争に行こう」ではなく「働こう」というスローガンが絶えず唱えられて来た。中国はここ数十年間、どこに対しても敵対的な爆弾を1発も投下しておらず、8億人以上を極度の貧困から救い出して来た。中国は、世界史上かつてない規模で世界の製造業を支配するまでに成長し、その範囲は、例えば造船、あらゆる種類の車両、グリーンテクノロジーのあらゆる側面、幅広い家庭用品や娯楽用品、さらには医療必需品や革新技術にまで及んでいる。
さらに、「一帯一路(BRI)」の効果もある。
HSBCの元会長であるダグラス・フリント卿は、中国の「一帯一路」イニシアチブが、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成において「最大ではないにせよ、最大の推進要因の一つ」であると宣言し、地域および世界の発展に「信じられないほど肯定的な」影響を与えて来たと付け加えた。
シンガポールの著名な評論家、キショア・マブバニは次のように説明した。「『一帯一路』はグローバル・サウスに真の恩恵をもたらしている。ジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道(最高時速350キロメートル)が運行を開始したまさにその週に、英国(G7加盟国)がバーミンガムとマンチェスターを結ぶ高速鉄道の建設を進める資金がないと発表したことは、実に印象的だ。将来の歴史家たちは、これを『世界情勢がいかに変化したか』を示す明確な指標として記録するだろう」。
結論
中国のソフトパワーが相対的に著しく高まっている傾向は、今後も続くものと見られる。タン教授はその理由を明快に説明している。「結局のところ、技術的優位性は、ある国が研究室でどれだけの未完成な言語モデルを生み出せるかによって測られるものではない。それは、それらのイノベーションが現実の世界でいかに効果的に人々の生活を向上させるかによって測られるのだ。手頃な価格の電気自動車、実用的なAI、あるいは労働を軽減するヒューマノイドなどを通じて、社会貢献を目的とした技術に積極的に注力することで、中国は世界の心と信頼を勝ち取るブランドを築き上げているのだ。」
カワガラス
