今日、オーストラリアのPearls and Irritations掲載、「Trump’s tragedy of errors(トランプの失策の悲劇)」。執筆は、世界銀行チーフエコノミストや米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を歴任し、2001年にノーベル経済学賞を受賞した、米国の著名な経済学者で、米国コロンビア大学教授のジョセフ・E・スティグリッツJoseph E. Stiglitz。

 

ドナルド・トランプ米大統領の軽率な戦争や、今日のスタグフレーション状態がどれほど長く続こうとも、その長期的な影響は甚大なものとなるだろう。自らを絶対君主と見なすトランプは、修復不可能なものを壊し、制御不能な力を解き放ってしまった。

アレクサンダー・ポープがかつて言ったように、「過ちを犯すのは人間である」というのは事実だ。しかし、誰もが過ちを犯す可能性がある一方で、他の人々よりも過ちを犯しやすい人間もいる。それこそが民主主義の正当性であり、多くの人々に影響を及ぼす決定を、権力の抑制と均衡を含む審議のプロセスに委ねる理由である。権威主義的・絶対主義的な政治支配の歴史には、自らの過ちが自分自身だけでなく、支配した社会にとっても破滅的な結果をもたらした人物が数多く存在する。

他国に対して戦争を仕掛けることほど重要な決定はない。にもかかわらず、米国は自国の権力分立や慎重な審議という仕組みをまったく無視して、まさにそれを実行してしまった。かつての王たちと同様、米国の虚偽に満ちた衝動的な大統領、ドナルド・トランプは、立法府による抑制を受けることなく、彼が聞きたいことしか言わないおべっか使いたちに囲まれている。その悲惨な結果は今や明らかだ。米国は再び中東戦争に巻き込まれており、すでに数千人の命――その大半は民間人――が失われ、米国が複数の戦争犯罪を犯したことはほぼ確実である。

イランとの戦争がいつまで続くのか、さらにどれだけの戦争犯罪が犯されるのか、あるいはどれだけの罪なき人々が殺されるのか、誰にも分からない。しかし、米国民は、トランプによる人権や法の支配の侵害にすっかり慣れきってしまい、絶え間なく押し寄せるニュースの洪水に圧倒されているため、抗議の声をほとんど上げられていないようだ。通常なら抗議や異議申し立ての拠点となる大学でさえ、恐怖が支配している。あらゆる抑圧的な体制下と同様に、経済的な不利益、あるいはそれ以上の脅威――ビザの剥奪、国外追放、あるいは刑事捜査――が、意図した通りの効果を上げているのである。

経済学者として、私はよく、トランプ大統領がイランに対して仕掛けたこの戦争が、米国および世界経済にどのような影響を与えるのかと尋ねられる。端的に言えば、戦争が長引けば長引くほど、被害は大きくなるということだ。しかし、たとえ戦争が早期に終結したとしても、その影響は長く尾を引くだろう。何しろ、重要なサプライチェーンはすでに混乱し、石油・ガスの生産施設は破壊されてしまった。ほとんどの予測では、復旧には数年を要するとされている。

さらに、危機にさらされているのは石油やガスの供給だけではない。1970年代の石油禁輸措置とは異なり、世界の食糧システムを支える肥料の生産も脅かされている。この危機は、新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻、トランプによる世界的な関税戦争やルールに基づく国際貿易体制の破壊など、他の主要な世界経済の混乱に続いて急速に発生したものであり、これらすべてがインフレの上昇と生活費高騰の深刻化に寄与している。

トランプがホワイトハウスに復帰する前、インフレ率は下降傾向にあったものの、中央銀行が重視する2%の目標値を依然として大幅に上回っていた。関税措置はこの傾向を著しく鈍化させ、インフレは世界的に再び加速している。米国を含む多くの国が、米国の政策によってさらに悪化させられた生活費高騰の危機にすでに直面している中、現在のリスクは、世界中の中央銀行が利上げを行うか、少なくとも利下げのペースを鈍化させることになる点にある。

その結果、住宅購入やクレジットカードの返済がさらに困難になるため、住宅購入の負担増という危機が深刻化し、トランプの予測不能な通商・移民・財政政策による打撃で既に揺らいでいる米国経済の減速を招くことになるだろう。米国経済の成長の約3分の1を支えているAIデータセンターへの無制限な支出がなければ、米国経済はまさに低迷状態に陥っていただろう。さらに、億万長者や企業を対象としたトランプの逆進的な減税措置が施行された今、米国には、彼が引き起こした混乱や、AIがもたらす可能性のある混乱――雇用の喪失からハイテクバブルの崩壊に至るまで――を緩和するための財政的余地が少なくなっている。

米国が石油の純輸出国として利益を得るとのトランプの主張はナンセンスだ。確かにエクソンは利益を得るだろうが、米国の消費者が支払う価格は世界的に決定されるものであり、しかも大幅に上昇している。こうした状況下では、米国は明らかに暴利税を課すべきである。しかし、化石燃料産業にこれほど徹底的に支配された政権下では、それは実現しないだろう。

かつての同盟国である欧州諸国もまた、トランプによって引き起こされたエネルギー価格の高騰と供給不足に苦しめられている。もし欧州の政策立案者が(ウクライナ戦争初期にそうだったように)電力価格をガス価格に連動させれば、事態はさらに悪化する可能性がある。しかし、もし欧州が米国への技術・防衛面での依存度を低減することで主権を取り戻す戦略を採用すれば、現在および長期的にその立場を強化出来るだろう。

戦争や現在のスタグフレーション状態がどれほど長く続こうとも、今回の事態がもたらす長期的な影響は甚大である。世界が、太陽光や風力発電の「変動性」は、トランプやロシアのプーチン大統領のような気まぐれな権威主義者の思惑に左右される化石燃料への依存を続けるよりも、はるかに管理しやすいものであると認識することを願うばかりだ。もしトランプの戦争が世界的なグリーン移行を加速させるのであれば、それは大きな光明となるだろう。

第二次世界大戦後、私たちの先人たちが築こうとした平和で国境のない世界への棺桶に、また一つ釘が打ち込まれた。トランプ政権下で、その世界の礎を築いた国が、今やそれを解体しつつある。中国との新たな冷戦と、世界的なサプライチェーンの回復力の明らかな欠如を鑑みれば、楽観出来る材料はほとんどない。そして米国の民主主義がこれほど弱体化している中、人為的なミスとその余波は急速に積み上がっている。

2026年4月27日Project Syndicate掲載記事の転載
 

アマドコロ