2〜3年前にある週刊誌が「技術&頭脳 流出が日本を滅ぼす」と題する記事を特集した。そこで取材を受けた一人に先日書いたシカゴ大学医学部中村祐輔教授がいる。同教授は東京大学ヒトゲノム解析センター長や国立がん研究センター研究所所長などを歴任し、2011年には内閣官房参与・内閣官房医療イノベーション推進室室長にも就任したが、今や日本人の2人に1人がなる癌の研究に対して国家戦略のないことに失望し、日本を脱出して、米国に永住することを決心された。その決心はメディアへの失望も後押しした。同教授は「日本という国を見ていると、監視役のメディアが監視機能を失い、かなり壊れてきているので、このままでは国ががん化してしまいそうだ。」と述べている。米国では今年1月、副大統領主導で「がん撲滅ムーンショット・ タスクフォース(Cancer Moonshot Task Force)」が発足されている。政権交代はあるが、次期大統領も認知症研究を優先課題に挙げており、現副大統領も年内に計画案をまとめて、公的・私的な予算を確保しようとしていると言う。癌は早期発見しか現在のところ治らない。進行した癌や再発した癌にはいわゆる抗癌剤が主に使われる。しかし、抗癌剤と名付けられてはいても、健康な細胞にとっても毒であり、副作用が強いばかりでなく、結局は幾らかの延命に役立つだけで、治ることはない。日本ではそうした癌には標準で抗癌剤が使われ、患者本人の選択は極めて狭まれている。こうした日本の治療の現場へも同教授は批判的である。現在、同教授は米国で、数人の研究者とともに最先端の癌の免疫療法と個々の患者に最適な治療法を検索可能なシステム作りに努力されている。同じ癌であっても個々の癌には遺伝子的な相違があり、その遺伝子的な相違に基づく免疫療法を見いだすことで、個々の患者の癌に合った免疫療法を施せる。それにより「爆発的な破壊力をもった新しい免疫療法」が来年から試されようとしている。人には異物から身を守る免疫力が備わっているが、癌はしたたかで、癌を攻撃する免疫力を抑え込む仕組みを持っている。その仕組みを標的とすることで、癌を退治しようとする新薬がすでに出されているが、これも効果の見られるのは今のところ20~30%くらいのようだ。しかも相当に高額な治療のため、医療費をさらに圧迫することが問題になっている。日本は世界に誇れる医療制度を持っているが、それも年々危なくなって来ている。高額ではない先進医療と言うことにも同教授は考慮されている。
すっかり葉の落ちた裏山