『親愛なる同士達へ』 祖国への愛と憎悪 | 一松亭のブログ

一松亭のブログ

労働問題、社会問題、心に残る映画について書いています。

アンドレイ・コンチャロフスキー監督の『親愛なる同士達へ』は、冷戦下フルシチョフの時代の1962年ソ連南部ノボチェルカッスクの機関車工場での大規模なストライに対する無差別な銃撃による過酷な弾圧が題材となった作品です。
スターリンの時代が終わりフルシチョフの時代は雪解けと言われ、宇宙開発競争での米国への優位等明るい面が取り上げられてきましたが、あのハンガリー動乱もフルシチョフによるもので、実際の労働者の生活は食料政策の失敗で苦しいものでした。
物価高騰や給与カットへの抗議がストライキの目的でした。ストライキのシーンでは労働者はレーニンの肖像を掲げています。
主人公のリューダは忠実な共産党員で集会で「扇動者に厳罰を」と主張しますが、一人娘がストライキに参加し弾圧に巻き込まれたのでは?という展開から物語は一変します。リューダは必死に一人娘の消息を探しますが、行きついた事実は…というストーリーです。自分の崇敬する祖国とは何だったのか!?全体主義体制の中で、国民が体制と折り合いをつけながらも家族を守っていかなければいけない痛みが伝わる映画です。ノボチェルカッスクはコサックの自由を求める気風が根付いた土地で気風が多くの人々に受け継がれているのでしょうか。コサックの末裔と思われるリューダのお父さんがいい味出しています。コサックについてはまた機会があれば書きます。


近年、旧ソ連時代は表に出てこなかった話を数多く目にすることができます。周辺諸国の映画でも同様です。DVDが出ているポーランド映画『地獄の戦場』(原題:WYKLETY)は「灰とダイヤモンド」でも知られる大戦後のポーランドで体制に抵抗した兵士たちの物語です。ウクライナの抵抗勢力が1956年まで国内で闘っていたのが知っていましたがポーランドでは1963年まで国内の闘いが続いていたのは驚きでした。ウクライナといえばスターリン体制で人為的に起こされた大飢饉ホロドモール(1932年から1933年)がありますがウクライナの人口の20%(国民の5人に1人)が餓死し、正確な犠牲者数は記録されてないものの、400万から1450万人以上が亡くなったと言われています。実は今のウクライナでロシア語話者が多い地域は、より多くの餓死者が出た地域にロシア人が入植した地域だと言われています。これを題材にした映画がアグニェシュカ・ホラント監督の『赤い闇』です。


現在進行しているウクライナの惨禍は現地のある人の言葉では「元に戻るには100年かかるだろう」というのがあったようですが、100年!あのホロドモールからだってまだ100年経っていないのです。ウクライナでロシアへの意識の根底にあるものを振り返って見るときにロシアのいうネオナチという言葉では片づけられないものがあるのを知っておいた方がよいでしょう。