さらに、序を読み進めると、

梅は鏡前の粉を披き、蘭ははい後の香を薫らす
之に加え、曙の嶺に雲移り、松は羅(うすもの)を掛けて蓋(きぬがさ)を傾け
夕の岫(くき)に霧結び、鳥は羅に封められて林に迷ふ
・・・

と続きます。「羅」は薄い衣、「蓋」は絹の傘、「岫」は山の洞穴(又は峰)です。

 

このように、曙や夕の情景も描写しているので、
 

初春令「月」の場合、「月」はやはりmoon ではなく、month と解釈した方がよさそうです。

なお、この場合、帰田賦では「仲春令月」だったのが、万葉集では「初春令月」となっています。

仲春は、二十四節気では、啓蟄、春分の頃。
現行暦なら、3月5、6日頃から4月3、4日頃まで。
大雑把に言うと現行暦3月、陰暦二月、つまり如月。
(陰暦は、3年に1回程度、閏月があるので、ズレがある)
冬籠りの虫が地中から這い出て、柳が芽吹き、
生命が新たに動き出すのを感じられる季節。
これを令月と言ったわけです。

「生命力を感じる月→物事を始めるのによい月→おめでたい月→よい月→令月」
という感じでしょう。

これに対して、初春は、二十四節気では、立春、雨水の頃。
現行暦なら、2月4、5日頃から3月4、5日頃まで。
大雑把に言うと現行暦2月、陰暦正月、つまり睦月。
梅は咲いていますが、まだまだ寒い季節です。
(たまに暖かい日もありますが(例えば今年は2月中下旬に暖かい日あり))
(なお、天平二年正月十三日は、ユリウス暦730年2月4日)

こちらは、「正月→おめでたい月→よい月→令月」、「梅→美しい月→令月」
という感じでしょうか。

いつを、よい月、おめでたい月、美しい月とするかは、人それぞれであり、
初春を令月と言ったっていいじゃないか、というところでしょう。

細かいことにはこだわらない、イイトコドリ(良い所取り)、実用主義とも言えるし、
実より名をとっている(正月という「名」、生命力という「実」)という意味では、形式重視かもしれません。

あるいは、清麗な印象のある「君が代」に比べて、中国の国歌はとても陽気ですが、
比較的寒い初春を令月とする「陰」の日本と、比較的暖かい仲春を令月とする「陽」の中国という
両国の国柄の違いが現れているのかもしれません。
なお、国歌は総じて陽気なものが多いので、日本の特殊性が現れているのかもしれません。