<単なるムダ口「イメージ」(その3)>



 都内にあるアットホームな職場へ、足柄から通う大柄な彼女は、とても明るい気さくな人柄だ。


 足柄は金太郎が育ったといわれる、足柄山のある土地柄だ。



 出勤してきた彼女に、くだけた上司が声をかける。


 「今朝もちゃんと熊と相撲とってきたか?」


 「またぁ」と彼女は笑う。



 営業に出ようとしている彼女に、毒舌な上司が声をかける。


 「ちゃんとまさかり持ったか?」


 「もう」と彼女は笑う。


 ひじょうに愉快だ。キンタロさんは、元気と健康の大元締めだ。



 足柄といえば金太郎。桃太郎じゃない。五条大橋といえば牛若丸。弁慶でもいい。羅生門といえば鬼。遠野といえば座敷わらし。黄桜といえば河童。浦賀といえばペリー。そして城ヶ島といえば雨。長崎は今日も雨。


 人の描く連想なんて単純だ。


 典型的な固定観念と言える。



 ひとまずヨロピクピク。



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<単なるムダ口「イメージ」(その2)>



 「今度神奈川へ引っ越すことになりました」


 「へぇ、横浜へ引っ越すの?」


 神奈川は横浜だけじゃない。川崎も横須賀も厚木も海老名もある。小田原もある。


 「今度栃木へ引っ越すことになりました」


 「へぇ、なんでまた日光へ引っ越すの?」


 栃木は日光だけじゃない。北海道といえば札幌。愛知といえば名古屋。兵庫といえば神戸。岡山といえば倉敷。


 人の抱く印象なんて平凡だ。


 典型的な先入観と言える



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<単なるムダ口「イメージ」(その1)>



 車の相模(さがみ)ナンバーを、「すもうナンバー」と呼ぶ。相模と相撲は似ている。


 湘南ナンバーを、「裕次郎ナンバー」と呼ぶ。呼ばない。石原裕次郎は、元祖湘南ボーイだ。今なら「サザンオールスターズナンバー」と言う。言わない。


 野田ナンバーを、「おしょう油ナンバー」と呼ぶ。野田にはしょう油工場がある。埼玉の小学生たちの多くは、ここへ社会科見学へ行く。そして小瓶のおしょう油を、おみやげにもらう。



 「しょう油は野田。じゃあ、酢は?」と問われたら、こう受ける。「酢は鎌倉」


 時頼と常世の有名なエピソード、「すわ鎌倉」に引っかけた言葉遊び。鎌倉の小学生たちが、お酢工場を見学したりはしない。日産工場へなら行くかもしれないが、その多くが閉鎖になってしまった。ミニカーがもらえるだろうか?小瓶のお酢よりいい。トヨタとどっちがいいだろう?地域的にも希望的にも、手前味噌な話になった。この際お味噌工場は、なんの関係もない。単なるムダ口だ。



 鎌倉ナンバーを、「お酢ナンバー」と言う。言わない。言えない。「鎌ナン」なんてもともと存在しないからだ。


 典型的なムダ口と言える



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<単なるムダ口「あいまい」(その2)>



 高校生の頃、友人が露出狂に遭った。警察署に赴いた彼女は、婦警さんに事情を聴取された。


 「それで何を見せられたの?」


 「アレです」


 「アレって何?」


 「アソコです」


 「アソコってどこ?」


 「ナニです」


 「だからナニって何?」


 女子高生はどう答えればいいんだ!



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<単なるムダ口「あいまい」(その1)>



 生まれた時からそこに住んでいる友人は、近所の掛かりつけのお医者さんも、生まれた時からの知り合いだ。


 高校生になった彼女が、風邪をひいて診察してもらった。古いつき合いの先生は、聴診器を胸にあてながら、「大きくなりましたねぇ」と言ったそうだ。彼女は複雑な思いがしたという。


 赤裸々な現状で、あやふやな言動は慎んでほしいものだ。



 ひとまずヨロピクピク。



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<妙なるたわ言(23)「文化的生活」について>



 「幸福」とは、心の底からやりがいのある仕事に就き、心の琴線に触れるようなパートナーに恵まれることではないか。


 それにより、家族や営みや人格や社会が生まれる。それらによって、「文化」が生じる。


 専業主婦を悲観することはない。家事や育児に生きがいを感じ、それを得意とするなら、人の役に立つ立派な専門職だ。やれるものならやりたいと思う。


 人が一生懸命に働いている姿ほど、美しいものはない。



 「不倫は文化だ」みたいなことを言った芸能人がおり、たいへんな非難を浴びた。たしかに不倫は文化であり、かといって不倫の言いわけに用いるのはいかがなものか。つまりは文化的芸術作品において、当たり前の日常を描いていたのでは、人々の心に残る名作にはつながらないということだ。


 人形浄瑠璃で上演される心中もののテーマは、道ならぬ恋。遊女のおはつと手代の徳兵衛の曽根崎心中。八百屋お七が小姓の吉三郎と、難なく結ばれめでたしめでたしでは、浄瑠璃や歌舞伎の題材には取り上げられない。作家であり医師でもある渡辺淳一氏の小説も、絶大なる支持を得るには及ばず、「失楽園」が流行語大賞には選ばれない。「文化には、不倫も含まれる」といったところだろうか。



 離婚記者会見で、「長い間二人は、仮面の夫婦でした」なぞとおっしゃる方がいるが、誰にでも当てはまる言い分ではないだろう。


 「長い間二人は、お面の夫婦でした」とおっしゃった方が、しっくりくる場合がある。


 「仮面舞踏会」といえばミステリアスだが、「お面舞踏会」といえばふざけている。ひょっとこかおかめに決まっている。ドラえもんやアンパンマンでも困る。「仮面には、鉄腕アトムやDr.スランプアラレちゃんは含まれない」といったところだろうか。



 「文化的生活」とは、買いたいものを悩まずに買え、食べたいものを躊躇なく食べられ、年に何回か旅行をする。そんな豊かで心穏やかな暮らしをいうのではないか。


 お金はほどほどにあればいい。税務署に追われる日々なんてまっぴらだ。一度でいいから追われてみたい。持っている人に限って、もっと欲しがるのも抵抗がある。一度でいいから持ってみたい。たとえふんだんにお金を持ちまくっていたとしても、いっしょに遣う相手がいないのでは、あまりにもさびしい。何事を味わうにしても、孤独では限界がある。「文化的生活には、ウマが合う人が第一」といったところだろうか。



 「生活に必要なのは、信用できる人物が絶対」といったところだ。誰しもひとりじゃ生きられない。



 ではおしまいに、本日の一句。


 「文化人 気取るは 文化のなさといえ」 文化人気取りの人は、象徴的に足がくさいと言われる。フットスプレーくらいじゃ間に合わない。


 次回もヨロピクピク。



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<単なるムダ口「決めゼリフ」(その2)>



 ある日お父さんに注意された小さな男の子が、大人のまねをしてため息をついた。


 「ボクだってそうしたいのはかわかわなんだよ」


 やまやまなんだよのまちがいだ。


 別な日にサワガニを飼いたくなった男の子は、お父さんにお願いした。


 「ボクがちゃんと面倒をかけるから」


 面倒を見るからのまちがいだ。


 時々わたしも、周囲に多大な面倒をかける。



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<単なるムダ口「決めゼリフ」(その1)>



 ある日お母さんにお説教された小さな女の子が、大人のまねをして反撃した。


 「アタシもうイキイキしちゃう


 イライラしちゃうのまちがいだ。


 別な日にプリンを食べた犯人にされた女の子は、お母さんに反論した。


 「まったくもう失礼するわね」


 失礼しちゃうわねのまちがいだ。


 時々わたしも、どっちが文法的に正しいのかわからなくなる。



 ひとまずヨロピクピク。



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<妙なるたわ言(22)「ノスタルジー」について>



 クリスマスキャロルが流れる頃となった。


 毎年この季節は、妙に落ち着かない。何かやらなきゃならないことがあるようで、変にそわそわする。


 いよいよ師走でもあり、「何かやり残したことはないだろうか」と前向きな気持ちが頭をもたげ、焦燥感にさいなまれるのではないかと思う。いや思いたがっている。


 とどのつまり、クリスマスをどう過ごしてよいかわからないのだ。



 そもそも山下達郎のせいだ。杉山清貴や稲垣潤一やマライア・キャリーが悪い。それにワム!もだ。そこら中、クリスマスがらみの甘いラヴソングで満たされる。


 デパ地下やスーパーやコンビニやファミレスなど、庶民が愛着を込めて省略形で呼ぶような場所では、たいがい誰かの曲が流れている。


 とにかく、これでもかこれでもかとマインドコントロールされれば、妙な気にもなる。


 (早いとこ恋人をつくらねば)


 イヴの夜には、袖なしのドレスに真っ白いファーを巻きつけ、一見してそれとわかるような高価なプレゼント入りの、上質の紙で出来た小型の手さげ袋を、ぶらぶらさせなければいけないような、変な気にもなる。


 間に合わせの彼氏は見つくろえたとしても、今からじゃ夜景のきれいなレストランの予約は間に合わない。ゆえに今年も、涙を飲む。涙といっしょに、やけ酒でも飲むか。



 ところで銀のエンゼルが5枚集まった。チョコボールの「おもちゃのカンヅメ」をご存知だろうか?


 銀のエンゼルなら5枚、金のエンゼルならなんと1枚で、夢と希望と期待と憧れの幻のカンヅメが、確実にもらえる。5人のシルバーエンゼルたちを手放すこと自体残念だったが、そうもしていられない。本日無事応募した。「おそとでたのしい」カンカンと、「おうちでたのしい」カンカンのうち、後者に決めた。半生を費やした待望の入手に、どちらか一方だけというのは酷でもある。


 3週間以内に届くそうで、いいクリスマスプレゼントになる。宝石よりよほどワクワクする。サンタクロースはいると信じていた時分から、苦節数十年。「教師生活25年」は、ど根性ガエルの町田先生の口ぐせだ。


 几帳面な子供なら、もう少し早く集められただろう。整理整頓に縁遠い子は、失くし物と忘れ物に縁が深い。絵の具のパレットや地図帳やコンパスは、どこにいったかわからない。体操着や音楽の笛やお習字の半紙を忘れ、怒られている夢をいまだに見る。


 それにしても金のエンゼルは実在するのだろうか?今後の課題である。


 昔なじみのおかしのチョコボールには、ノスタルジーがある。話の持っていき方に無理があったか。



 過ぎ去った時と立ち去った土地。その心象に触れた瞬間、人はノスタルジーを覚える。端的に言うなら、「過去」と「田舎」だ。


 朝一番の便所の匂い。昔は「トイレ」ではなかった。朝のみずみずしい匂いの中に、えもいわれぬ哀愁感が漂う。思わず深呼吸する。しなければよかったと悔やむ。


 銭湯の匂い。お湯の匂いなのか湯あかの匂いなのか、大好きな匂い。夏に子供たちだけで行った時のこと、大みそかに親戚みんなで行った時のこと。平和で楽しい想い出。まさに「浮世風呂」だった。


 街の雑踏にまぎれ、ふっと想う人の整髪料の匂いに振り返る。意識するともなく、その姿を探し求める。


 匂いの記憶は、もっとも鮮烈なノスタルジーの源だ。



 修学旅行の新幹線。東京駅が近づくと、東京タワーが姿を現す。なんともいえない安堵感におそわれる。「ああ帰ってきたんだなぁ」と思う。海も山もない土地で育った者には、東京タワーは故郷のシンボルである。


 「ふるさとは 遠くにありて おもうもの」


 素朴に奥深い、室生犀星の一句。



 食堂の券売機を目にすると、ノスタルジックな気分に駆られる。両親に連れられて入った、浅草の食堂。そんな食堂は、和食洋食中華なんでもどんと来いだった。上野のあんみつ屋。あんみつにするかくず餅にするか、磯部巻きにするかところてんにするか悩んだ。食券制と食券には、時代に取り残されたようなうら寂しさと、古めかしく懐かしい昭和の名残がある。


 「ふるさとの 訛りなつかし停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく」


 停車場とは上野駅のことだ。「そ」とは訛りを指す。郷愁あふれる、石川啄木の一句。



 祭囃子の笛の音と、花火のはじける音に、ふと足を止める。音に遠い昔がよみがえる。



 わたしにとってのノスタルジーは、盆踊りの提灯に象徴される。


 盆踊りの日には、町内の子供たち全員に、ひとつずつ提灯が配られた。色鮮やかな提灯の中には本物のろうそくが入っていて、ちょっとバランスをくずせばたちまち燃え上がる。今みたいに豆電球じゃなかった。盆踊り会場までの提灯行列で、何人の子供たちが大事な提灯をだめにして、泣いたことだろう。行列に参加する以前に、パァにしてしまう子もいた。無事にたどり着けるかどうかも、真夏の大イベントの醍醐味であり、喜びのひとつだった。


 わたしにとってのノスタルジーは、時と土地とともに、本物を懐かしむ気持ちでもある。



 ではおしまいに、本日の一句。


 「恋人の 香りなつかし街角の 人ごみの中にそを嗅ぎにゆく」 返句。 「東京タワーは 遠くにありて のぞむもの」 完全なるパクり。東京タワーは、中に入ってしまえばけっこうつまらない。


 次回もヨロピクピク。



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<単なるムダ口「決まり文句」(その2)>



 彼と買い物に行く。彼の選んだ既製品のジーンズは、すそが松の廊下の裃のように長い。最低10センチは切らなきゃならない。


 店員さんが訊ねる。「丈はいかがなさいますか?」


 彼は決まってこう言う。「あと20センチ付け足してください」


 店員さんと彼女が爆笑する。



 ひとまずヨロピクピク。



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