掲題の本を読んだ。
「過去」のトラウマから、「現在」の対人関係へ—従来の治療法とは異なるIPTの画期的なアプローチを、膨大なデータと厳選されたケーススタディを用いながら丁寧に解説。PTSD治療に新たな選択肢を示す、本邦初の臨床マニュアル。
PTSD+うつ病持ちなので大変参考になった。
対人関係療法(IPT)は精神科医ハリー・スタック・サリヴァンの治療観をベースに60〜70年代に米国で生れた精神療法である。
認知行動療法(CBT)と並び、うつ病やその他いくつかの精神疾患に対して、きちんとしたエビデンスベースドな精神療法として双璧をなすと言われている。
が、日本ではまだ保険点数の対象になっておらず、単体で施術を受けるとなると自由診療となってしまうため、CBTに比較してあまり普及していない。
とはいえ、その効果は恐らく確実なものとなるだろうことは本書を読んでも十分理解できたように思う。
CBTや既存の力動精神療法では、PTSDの治療に際し、患者を過去のトラウマに向き合わせるような治療をするが、IPTは方法の上ではこうした道をとらない。
あくまでも、現在の対人関係において問題となっている感情あるいは患者の置かれた立場に気付きを与えるような方法で治療を進めていく。
それゆえ、CBTなどと比べると脱落者が少なくなる。
これは画期的と言えるだろう。
それに、治療の過程で、患者が現在どのような感情を抱き、どのような境遇に置かれているか、具体的には、「悲哀」や「怒り」、「役割の変化」や「役割をめぐる不和」など、その都度査定しフィードバックしてくれるので、治療終結後にもしまた具合が悪くなっても、患者自身である程度コントロールしやすくなるという美点もあるだろう。
日本でこの治療法を紹介、第一人者として知られているのは精神科医の水島広子先生(本書の邦訳監修者でもある)だが、いつか先生の講演などに行く機会があればぜひ参加してお話を聞いてみたいと思った。