イーブス・バーノー監督のドキュメンタリー映画
『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』を見た。
イーブス・バーノー監督のデビュー作。『ティファニーで朝食を』『冷血』など多くの名作を残した20世紀を代表する文豪トルーマン・カポーティ。なぜ彼は、こんなにも多くの人を傷つけるような本を執筆したのだろうか?死後36年を経て、彼の波乱に満ちた人生を濃密に網羅し、「未完の絶筆」とされている問題作『叶えられた祈り』をめぐるミステリーに迫る珠玉の文芸ドキュメンタリーがここに完成した。
カポーティの小説は殆ど読んでいないけど、
思い返してみるとはじめてその世界観に触れたのは映画『グラスハープ』だった。
ディテイルはもう忘れてしまったが、
すごく繊細な世界観で印象に残ったのを記憶している。
その後、処女作『ミリアム』を読み、また映画『カポーティ』を見たが、
なんかいまだにアンビバレントな印象を受ける作家だなと思う。
「ティファニーで朝食を」などで知られる作家、トルーマン・カポーティの半生に迫ったドラマ。カンザスでの一家惨殺事件に興味を持った彼が、服役中の犯人に取材を試み、「冷血」として小説に書き上げるまでを描く。死刑を宣告された犯人を自作に利用しつつも、やがて親近感を覚えて戸惑うカポーティ。作品のために“冷血”になっていた彼が、死刑を前にした犯人の心を知る過程は、感動的でありスリリングでもある。
本作最大の見どころは、フィリップ・シーモア・ホフマンの演技だろう。ゲイであることを隠さなかったカポーティを、高めの声で表現。電話の受話器をつかむときなど、つねに小指を立たせるあたりが笑える。一方で自分の作品のために卑劣になる男の姿は、ある意味、リアル。本作は人間のダークな本能にも焦点を当てているのだ。またカポーティの親友や容疑者などキャストのアンサンブルも見事。そして観終わった後も印象に残るのは、映像の数々である。野原に建つ家や、殺された家族の部屋など、その構図や、惨い状況に反した落ち着いた色づかいは、1枚の絵のように不思議な美しさをたたえている。(斉藤博昭)
とはいえ本ドキュメンタリーを見ると、
そのアンビバレンスさこそ、ゲイという性的少数者であり、
不幸な生立ちと繊細な感覚を持つカポーティの背負った宿命だったのだと思う。
カポーティには表の顔と裏の顔がある。
表の顔は同時代の米国という社会と懸命に同化しようとするカポーティであり、
裏の顔は幼年期の記憶と素のままの繊細な感覚を保とうとするカポーティである。
裏の顔は滅多に表に出ては来ないが、
例えば『冷血』や『叶えられた祈り』で分厚いヴェールの下から
突然ぬっと現れるカポーティの顔である。
マイノリティとして現代米国を生きる以上、
誰もがこの二面性を持たざるを得ないのである。
ところで本作を見ていて思ったのは、
トルーマンの「表の顔」の言動がいかにD.トランプのそれに似ているか、
という事である。
これは非常に興味深いことではないだろうか?
トランプがその反移民的な強硬路線をとっているにもかかわらず、
当の移民の一部から一定の支持を得ているのは、
実は米国社会そのものが抱えているこの二面性の故なのではないだろうか。