D.アロノフスキー監督『ブラック・スワン』を観た。
ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナは、元ダンサーの母親の寵愛のもと、人生のすべてをバレエに捧げていた。そんな彼女に新作「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが訪れる。しかし純真な白鳥の女王だけでなく、邪悪で官能的な黒鳥も演じねばならないこの難役は、優等生タイプのニナにとってハードルの高すぎる挑戦だった。さらに黒鳥役が似合う奔放な新人ダンサー、リリーの出現も、ニナを精神的に追いつめていく。やがて役作りに没頭するあまり極度の混乱に陥ったニナは、現実と悪夢の狭間をさまよい、自らの心の闇に囚われていくのだった……。
「演じる」という事の重圧故に精神を蝕まれていく様は、
『ノーマ・ジーンとマリリン』(1996)を想起させるが、
後半は少し特殊メイクとCGに頼りすぎでは?とも思う。
髪を染め、整形をし、マリリン・モンローというスター女優になったノーマ・ジーン。誰よりも人に愛されたいと思いながら、自分を愛せなかった女性の孤独を描く。
前半の展開は2017年に発覚したワインスタイン事件を連想させるが、
奇しくもこの『ノーマ・ジーンとマリリン』に出演したA.ジャッドと
M.ソルヴィーノは本事件の当事者であった。
ヤバすぎる!ハーヴェイ・ワインスタイン事件の意味するところ。敏腕製作者のセクハラは“当たり前”なのか!? - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)
MeTooムーヴメントの発端となったこのワインスタイン事件は、
今も映画界や演劇界に多大な波紋を齎している。
福島県飯館村出身の俳優・大内彩加さんの件などもその一例だろう。
演出や演技指導といった名目は、当事者たちを一種の権力関係に巻き込む。
「権力」とは永田町や霞が関のみを指すのではなく、
そこに巻き込まれる人々の<あいだ>に生じるある関係性を言うのだ。
権力関係が生まれるところには必ずと言っていいほど暴力が生じる。
それを防ぐためにはどうすべきかを、
僕らはこれからもずっと考えていかなければならないと思う。