柳美里さんの短編『フルハウス』読了。

 

“家を建てる”が口癖だった父は、理想の家族を夢みて、払える金もないのに、いきなり立派な家を建てた。しかし成人した娘たちも、16年前に家を出た妻も、その家に寄りつかない。そこで父はホームレス一家を家に招き、ニセモノ家族と一緒に暮らし始めるのだが……不気味な味わいの表題作は、泉鏡花文学賞を受賞。ほかに、不倫する女が体験する、不倫相手の妻の奇矯なふるまいを通して、家族の不在をコミカルにえがく「もやし」を収録。才気あふれる2短篇。

 

柳さんの小説は高校時代に「家族シネマ」を図書室で借りた記憶があるが、

挫折した気がするので、たぶん、これが初めて読み通した作品だろうと思う。

ただし、時評集『仮面の国』は高校時に読んでいるし、

長編『8月の果て』や『ゴールドラッシュ』、『JR上野駅公園口』などは

絶賛積読中である(汗)

 

 

 

 

 

 

柳さんは存命の日本文学作家のなかでも、

もっとも読む価値のある作家の一人だと以前から感じていて、

本作を読んでもその印象は揺るがなかった。

もちろん初期の作品なので、「粗削り」と言われそうなところはあるのだが、

それでも肝心なところはやはり外していない、と思う。

 

初期の柳さんの作品の特徴は、やはり巷間いわれているとは思うが、

私小説的な味わいだろう。

柳さん自身を思わせるような(しかし柳さんではない)主人公が語り手となり、

物語が進展していく。

そこには日本社会のひずみ、ブラックホールのような空間が如実に反映されている、

こうした時空のひずみの感覚は、柳美里作品の一つの特徴なのではないかと、

『JR上野駅公園口』などをちらっと読んでいても感じる。

空気が濃くなると、

レンズ効果でそこだけ少しぼやけたような感じに見えることがあるが、

あれに似た感覚と言っていいかもしれない。