A.キアロスタミ監督『オリーブの林をぬけて』を観た。

 

『そして人生はつづく』の1シーンに登場した、地震の数日後に結婚したという若夫婦。だが実際に夫役を演じた青年ホセインは、以前、妻役のタヘレにプロポーズし断られていた。ふたりの過去を知ったキアロスタミは、このエピソードをもとに映画をつくることを決意。前二作に登場した村、そしてジグザグ道を舞台に、再び至福の映画が誕生した。結婚を諦めきれないホセインと、決して彼の言葉に応えようとしないタヘレ。果たして彼女の気持ちはどこにあるのか…? 映画内映画という入れ子細工のような構成のなかで、虚構と現実の境界線はどこまでも曖昧になっていく。映画製作の裏側で巻き起こるドラマをユーモアたっぷりに描き出す、キアロスタミ流ラヴストーリー。

 

 

 

 

キアロスタミらしく、美しい作品。

 

一点だけ補足しておくと、

タヘレがホセインと言葉を交わさないのは、

役柄という事もあるだろうが、

第一には、未婚の女性は男性に話しかけてはいけない、

というシャリーア(イスラーム法)に基づくイランの法律があるからだ。

タヘレがホセインと話してしまうと、映画はイラン政府の検閲に引っ掛かり、

出演者や監督を含め、関係者は逮捕され、

タヘレは鞭打ちか石打の刑にされてしまうからである。

 

このような因習はかつては日本や西洋にもあったが、

今でも残っているのはイスラーム圏でも保守的な地域、

具体的にはイランやサウジアラビア、アフガニスタンといった地域のみと

言ってよいだろう。

アッバス・キアロスタミはイランのこのような検閲体制、社会体制と

常に戦っていたのだ。