朝日新聞のこの記事を読んで思ったことを書きたい。
競走馬「引退後は食肉」の現実、直視し動いた 「ウマ娘」に沸く業界 https://t.co/AEpe2E2RMl
— 朝日新聞
「この馬、潰しておいて」
「分かりました」
ある地方競馬場でのレース後に、馬主と調教師の会話を聞いた。
「潰す」は「馬肉にする」ことを意味し、その後もたびたび耳にした。
デジタル (@asahicom) April 18, 2024
近代競馬の起源は16~7世紀の英国と言われている。
イギリス競馬の概要:イギリス競馬 各国の競馬 海外競馬発売 JRA
当時は貴族の間での娯楽であり、賭博の対象でもあった。
英国はプロテスタントの国なので屡々賭博禁止令が出たらしいが、
それでも貴族たちはやめようとしなかった。
同時代のB.パスカルも賭博に熱中していたことは知られているが、
賭博は近世ヨーロッパのトレンドであったようだ。
そんな中で競馬のレース(race)は
やがて馬そのものの品種を意味するようにもなり、
これが後に社会進化論とつながって「racism」の語源ともなった、
ということを、昔、高橋源一郎の本で読んだことがある。
つまり現代で言う人種差別は
欧米の近世史の展開と軌を一にしているのだ。
元来は馬や犬、猫などの愛玩動物を対象にしていた「race」という言葉は、
20世紀に入り人間そのものを対象としていく。
ナチス政権が掲げた「生きるに値しない命」という言葉はその象徴だろう。
この言葉はまず、ドイツ語圏(特にオーストリア)において、
自閉症児を対象として使われた。
「発達障害に関心のある人には、ぜひ手に取って頂きたい一冊」――岩波明氏(昭和大学附属烏山病院院長、『発達障害』著者)推薦!/ロンドンブックフェア(2018年)で話題沸騰! 自閉症スペクトラムの概念を拡大したアスペルガー医師の裏の顔を、史料の掘り起こしで白日の下に! 待望の邦訳。
当時は左右両翼に優生学的思考が広まっており、
特に左派が政権をとったウィーン市では
この優生学を基に自閉症児・知的障害児の療育を行おうとしていた。
H.アスペルガーもそうした系譜に連なる人物ではあったが、
思想的には彼は当時のウィーンの医師たちとは真逆であり、
ナチスの台頭とともにその流れに合流していく。
そして「生きるに値しない命」という言葉は
知的障害・精神障害者から異人種(非アーリア系人種)や犯罪者、
今でいうホームレス、性的少数者、共産主義者へと適用が拡大していく。
ホロコーストである。
そこでは望ましくない人々、好ましくない人々を
いわば「動物」と同一視する傾向があった。
同時代のソ連のグラグ、ちょっと後の中国の労働改造所も、
その点では同じであった。
いったいヒトとそれ以外の動物の線引きはどこでなし得るのか、
またそもそも線引きすべきではないのか、
ロシアがウクライナを、イスラエルがガザを侵略している現在、
とても現代的で重要な主題であると思う。
ちなみにM.フーコーが引用し有名になった「パノプティコン」の発案者
J.ベンサムは、強制収容と強制労働を、
主体化/内面化のために必要な一体両輪のものとして考えていたという
(小松佳代子「J.ベンサム『パノプティコン』再考」参照)。
その意味で「近代」はそのとば口からにしてすでに、
ヒトを動物として扱うことを決めていたのかもしれない。