池内恵著『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛」読了。
百年前、英・仏・露によって結ばれた秘密協定。それは本当に諸悪の根源なのか。
いまや中東の地は、ヨーロッパへ世界へと難民、テロを拡散する「蓋のないパンドラの箱」と化している。列強によって無理やり引かれた国境線こそが、その混乱を運命づけたとする説が今日では主流だ。しかし、中東の歴史と現実、複雑な国家間の関係を深く知らなければ、決して正解には至れない。危機の本質を捉える緊急出版!
もう15年近く前になる「アラブの春」を発端として始まった今日の中東の大混迷。
昨年10月にはイスラエルがハマスの砲撃・人質拉致への報復として、
まさに中東戦争以来の規模で
ガザ及びヨルダン川西岸のパレスチナ自治区への侵攻を開始し、
出口はより一層見えなくなっている。
本書は2016年に出た本で、
いわゆる「イスラーム国」がまだ強い勢力を誇っていた時期に出されたものだが、
主張の核心は現在でもまだ十分有効と言えるだろう。
現在の中東・アラブ地域の混迷は1916年の「サイクス=ピコ協定」に遡れるが、
その協定がではもしなかったら今日のような混迷は起きなかったかというと
必ずしもそうとも言えず、寧ろ各地の民族主義国家が、
暗黙の裡に協定が定めた国境線を踏襲していたからこそ、
見せかけ上の安定が保たれていたこと、
それが2010年チュニジアから広まった「アラブの春」によって崩壊し、
今日の大混迷へとつながっていることを明確に示してくれている。
終章で言及されていた映画『アラビアのロレンス』の見方も面白かった。
今度、時間のある時にでも鑑賞してみようと思う。