H.v.クライストの短編『チリの地震』読了。
十七世紀、チリの首都サンチャゴで引き裂かれたままそれぞれ最後の時をむかえようとしていた男女がいた…絶後の名品「チリの地震」他、天災/人災を背景にした完璧な文体と構成による鏤骨の作品群、復活。
正しく完璧な作品、というべきだろう。
凡百の作家ならこれに余計な修飾や描写などをごてごてとつけそうだが、
クライストは違う。
必要にして十分かつ簡明な文体で、
ぎゅぎゅっと、濃縮された作品を作る。
生前はほとんど無名でありながら、
20世紀の名だたる作家に影響を与えたと言われるのも頷ける。
特に災害直後の、上下貴賤が一瞬間消えるような感じと、
そのすぐ後で、旧来の価値観が稲妻のような速さで戻ってくるところは、
大きな災害を経験したものであれば誰しも共感できよう。