まだその息吹が頬の上に感じられるのに

ああどうしてか この近しい日々は

過ぎて行く 永遠に過ぎ去り 二度と帰らない!

 

これこそは 何人(なんびと)も思量にあまる

嘆くすら身の毛もよだつ一事だ

ものみなが滑り行き 流れすぎ

このぼく自身というものさえ なんの支障(さわり)もなしに

小さな子供の中からするりと抜けだす

不気味に押し黙った 気疎(けうと)い一匹の犬なのだ

 

そして そのぼくは百年前にも生きていたのだ

屍衣をまとうたぼくの父祖たちは

ぼくに身近なのだ このぼくの髪の毛のように

 

ぼくと一つなのだ このぼくの髪の毛のように

 

 

 

ウィーン生まれの詩人・劇作家ホフマンスタール(1874‐1929)は、早熟の神童として10代から20代にかけて詩を作ったが、若くして詩を放棄して本格的に劇作に向かった。西欧の詩的伝統を踏まえたその詩は、温柔であり幽艶であり典雅である。ホフマンスタールの“幻視的世界認識”は、常に大いなる連関へと向けられていた。