鏡を配する
人の気配がまだ残る家
青い更紗の懐かしい部屋
祈りに縁どられた細密画
鈍色の水を湛えた鏡面が閃く
火を点ける
とうに水枯れた庭の池に
忘れ去られた道具を集めて
消えた星たちのために
古くて遠い星たちの焔の色で
失われた物と
失われゆく物のあいだで
その耐えがたさの前に
ひとり、とり残されて
星置き、鏡置き
誰もいなくなった場所を
鏡に映して
もう怯えることもなく
来る夜のしずかな歩みを
燭火で導く
この家と苔むした裏庭の
いつか見ることのない跡を
ひっそり済ませて
さきの世で繋がる人たちはとうに立ち去った
とても遠い呼び声を
ずっと聞いていたような気がする
(「銘度利加」)
この土地を行き交う者たちの気配を、胎内に響かせ、鎮める、聖なるうた声。待望の第1詩集。