諏訪敦彦監督の『風の電話』を見た。
この10年の日本というのは本当に、
災害と向き合い通しの10年だったと言えるのではないか。
そうした中で多くの人が、傷つき、また大切なものを失っていった。
しかし行政は、そうした傷ついた人々をしっかりとケアし、
フォローしてきただろうか?
少なくとも東日本大震災に関しては、僕は被災者の一人として、
決して十分だとは言えないような気がする。
たしかに箱としての復興は進んでいるように見える。
しかしその実、傷ついた人々の心は置き去りにされているようにも見える。
それは恐らく、東北・三陸だけの話ではないだろう。
この映画はそんな日本のこの10年間を象徴するような作品だと思った。
主人公のハルは岩手県大槌町に生まれ育ち、東日本大震災で両親と兄弟を失った。
そして広島・呉のおばの下で育てられるが、
高校3年のある日、おばが倒れて意識不明の状態になってしまう。
ハルは広島の豪雨災害にあった地域に行き、そこで死のうとするが、
通りがかった男性に助けられる。
自らの妹も自死したというその男性に「死ぬなよ」と言われ、
ハルは一人、大槌へ向かおうとヒッチハイクを始める。
表題の『風の電話』というのは、大槌町浪板海岸の丘の上に実際にある。
電話線はつながっておらず、寂しげな風の音だけが周囲の草木を撫でている。
が、心に傷を負うものにとってはそれが逆に、
心の内を吐き出しやすい環境になっているのだろう。
東日本大震災から10年半が過ぎたが、今でもこうした人々がいるということは、
どうか忘れないでいてほしいと思う。
そして震災だけでなく、日本中で多くの人が、
自然災害からの復興の途上にあるということを忘れないでほしいと思う。