胡波(フー・ボー)監督のデビュー作であり遺作となった映画
『象は静かに座っている』を観た。
中国東北部の地方都市を舞台にした群像劇。
若干29歳でこの作品を遺し自ら命を絶った胡波という監督は、
いったいこの作品にどんな思いを込めたのだろう。
閉塞した社会や人間関係の中で必死に足掻く4人の人物たち。
満州里の動物園(正確にはサーカス)にいるという
一日中ただ座っているだけの象とはいったい何を表しているのか。
答えは永遠の謎となってしまった。
遺されたのはただ、
沈鬱でありながらも美しい灰色の荒野と、
そこに息づく人物たちの絶望的な輝きだけだ。
醜い世界の只中で、彼らの魂はなお微かな光を放ち続ける。
恰も原子炉の中のチェレンコフ光のようなその輝きに、
ガイガーカウンターの警告を思わせるHualunの音楽が呼応する。
この世界の醜さと美しさ、絶望と希望、脆さと力強さ――
そんな相反するはずの両面を同時に垣間見る時、
監督がなぜデビュー作にこの作品を選び、
そして自ら命を絶たなければならなかったのかが、
ほんの少しわかるような気がする。
胡波という監督の才能に敬意と感謝を表するとともに、
改めてその冥福を祈りたい。