笙野頼子の芥川賞受賞短編『タイムスリップ・コンビナート』を読んだ。

 

 

 去年の夏頃の話である。マグロと恋愛する夢を見て悩んでいたある日、当のマグロともスーパージェッターとも判らんやつから、いきなり、電話が掛かって来て、ともかくどこかへ出掛けろとしつこく言い、結局海芝浦という駅に行かされる羽目になった。

 

ハチャメチャな書き出しである。

しかも、小説の筋としてはまさにこれだけの話に尽きるのである。

しかし、作者が行き当たりばったりに奇抜な話をダラダラと続けてるのかというと、

そういうわけでもない、ということは、下の論文を読んでもらえばわかるだろう。

 

島村輝;鶴見線海芝浦駅縁起――笙野頼子「タイムスリップ・コンビナート」と「55年体制」

http://repository.tufs.ac.jp/bitstream/10108/72845/1/ifa014004.pdf

 

海芝浦は鉄道ファンや工場ファンにも人気のスポットだが、

改札付近は撮影禁止である。

それもそのはず、上記リンクの論文でも書かれてるように、

敷地を所有する東芝京浜事業所は原発の部品を作ってるからなのだ。

 

小説の終盤ではさらに、主人公・沢野(三重県四日市市出身)の母親も、

かつて海芝浦で働いていたことが明かされる。

母親が東芝時代の話を沢野に殆どしなかったのは良い思い出ではなかったからで、

この辺のエピソードの挿入はフェミニストたる笙野頼子の面目躍如、というべきだろう。

 

いずれにしろ、こういう芥川賞作品は恐らくもう2度と出てはこないだろう。

僕はそのことを非常に惜しく思う。