小山田浩子著『穴』他二編を読んだ。

[dブック]穴(新潮文庫)http://book.dmkt-sp.jp/book/detail/title_id/0000230225?utm_source=01app_share



表題作は2013年下半期の芥川賞受賞作。
恐らくここ10年ほどに日本語で書かれた作品の中でも
十指には数えられるであろう傑作だと思う。
よく観察された丹念な描写と裏腹に
カフカや安部公房を想わせる荒唐無稽な筋には、
しかし単なる奇抜さではなく、
ユーモアやペーソスに包まれた鋭い問題意識が透けて見えてくる。
その姿勢は他の二作『いたちなく』と『ゆきの宿』にも共通している。
特に『いたちなく』は、
新婚の友人宅の屋根裏に巣食ったイタチの事が軸になる話だが、
何とも言えない読後感があって、
不妊治療中の主人公夫婦の、
特に妻の側にのし掛かる切迫感や苦しみといったものが非常に伝わってくる。

江戸幕府の終焉から150年。
日本は形の上では東洋で先駆けて近代化を成し遂げたとは言うものの、
社会のあり方というか精神的な部分では未だ封建的な部分は多く残存し、
女性への抑圧もまた根強い。
象徴的なのが再燃した慰安婦問題への反応だろう。
その反応の仕方にはどこか、
戦争責任の如何ということ以前に、
女性(たち)がそもそも声を上げることへの強い反感、
憎悪があるのではないかとすら思える。
その根底に潜むのは伝統的な道徳に裏打ちされた女性蔑視であり、
依然として男性中心主義の社会のあり方を崩すまいとする
ある種の意志である。
社会全体がこうした意志を当然のものとして受け止めようとしているならば、
この国の未来(さき)もそう永くはないのだろうと思う。