最近見ているTV番組のひとつに

池端俊策さんと岩本真耶さん脚本、尾野真千子さん主演の

『夏目漱石の妻』がある。

タイトル通り、尾野さん演じる漱石の妻・鏡子(旧姓中根)を中心に、

熊本第5高等学校の教師として赴任するあたりからの漱石の周辺を

コメディータッチで描いたドラマだ。

 

 

 

第3回は漱石が『吾輩は猫である』で文壇デビュー、人気を博すあたりから、

後に長編『道草』のモデルともなる養父・塩原昌之助の無心や

同じく長編『坑夫』のモデルとなった青年の来訪などが描かれ、

義父・中根重一の没落の顛末が描かれていた前回とあわせて、

漱石やその周辺にとっても、また日本の近代史を振り返る意味でも

非常に重要な時期が描かれていると思った。

 

わりと知られていることだが、

夏目漱石という人はかなり複雑な家庭環境のもとに育っている。

1歳で塩原家に養子に出された後、7歳で夏目家に戻るも、

家族関係は良いとは言えず(特に実父)、

若い時から強い孤独感を抱いていたようだ。

そんな漱石を陰に陽に支えたのが妻の鏡子だが、

この人物は長年「悪妻」とか「猛妻」と言われた来た。

しかし実際にはそれほど「悪妻」というわけではなく、

明治の内務官僚だった中根重一の長女として生まれ、

多少わがままに育ったせいもあって

当時の封建的な理想の女性像から大きく外れていたというのが

実情だったようだ。

 

余談だがこの鏡子の父・中根重一という人物は

明治中期すなわち議会草創期の内務官僚として

官僚系山縣閥(元老・山縣有朋を中心とする政治閥)の筆頭で

後に神社合祀の強行や戊申詔書の公布に暗躍する平田東助の下で働き、

1900年前後の政権交代を機に次第に没落していったと言われる。

そういう意味では当時の典型的な官僚なのだが、

面白いのはその上司であった平田がその後

内相として幸徳秋水などの大逆事件捜査の指揮を担ったということ。

小説『三四郎』で日露戦後の日本を「滅びるね」と書いて見せ、

朝日新聞では大逆事件に強烈に反応した啄木と机を並べた漱石が、

偶然とはいえ、こうした人物の部下の娘と結婚したというのが、

皮肉なめぐりあわせを感じさせる。

ちなみに平田が公布に暗躍した戊申詔書と『三四郎』は

同じ1908年に出されていて、

戊申詔書の方はその後の地方改良運動を準備する一方で

思想統制的な面ではその後の大逆事件や治安維持法をも

準備したと言えるだろう。

 

次回第4回はいよいよ最終回。

漱石の女性問題や世に言う「修善寺の大患」が描かれるようだが、

果たしてどんな風な内容になるのか、今から非常に楽しみだ。