遠い潮騒の音は

喧しい地鳴りと人声に掻き消される。

虫の音

さえずりはみな

不気味な沈黙の中に引き摺り込まれる――

蟻地獄の獲物のように。

奪われた産土は

今は何処に拡がっているのだろう?

けれどその記憶は決して消えることがない――

悲しい程に。

幼い面影の戯れた野道は

今は何処へ続いているだろう?

まな裏に焼き付き

青空と沸きあがる雲の向こうへと

どこまでも続くあの野道。

もう一度、辿り着けるのだろうか?

もう一度、廻り逢えるのだろうか?

当て所もない記憶を胸に

同じ岐れ路をまた幾度も廻っている。