「ほらほら、これが僕の顔だよ」

と、目の前でつり革につかまったスーツ姿の男は

自分の顔を剥ぎ取る。

そこには目も鼻も口もない

真っ新なのっぺらぼうの顔が張り付いている。

すると隣の妊婦が

「これが私の顔よ」

と、自分の顔を剥ぎ取る。

そこにはやっぱり隣の男と同じような

真っ新なのっぺらぼうの顔が張り付いている。

そうやって次から次へと

満員電車の中

人々が自分の顔を剥ぎ取って

のっぺらぼうになっていく。

一人ののっぺらぼうが

新聞を広げながら

したり顔で社会問題や政治問題について

隣ののっぺらぼうに話して聞かせている。

僕はこわくなって

すぐ次の駅で降り、

トイレに駆け込んで鏡を見ると、

僕の顔もやっぱり

すでにのっぺらぼうになっているのだ。