遅まきながら、
あけましておめでとうございます。
年始からいきなり2週間近くも沈黙してしまったが、
とりあえず今年もこの拙いブログをよろしくお願いします。

年末年始はとりあえず地元に帰ったが、
その前後、マイペースに読み続けていた本がある。

栩木伸明さんの『アイルランド紀行 ジョイスからU2まで』。

アイルランド紀行 - ジョイスからU2まで (中公新書)/中央公論新社
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一生のうち、一度は行ってみたい地域というのがあって、
アイルランドはその一つであり続けている。
スウィフト、イェイツ、ジョイス、ベケットといった、
文学史に絶大な影響を与えた作家たちや、
20世紀を代表する画家であるF.ベーコンらを生みだし続けてきた地。
あるいはクランベリーズやエンヤ、U2といった音楽、
そしてギネスを中心としたパブや
タップダンスの起源ともなったアイリッシュダンスなど、
ケルトの伝統の流れをもくむアイルランド独自の文化。
そうしたアイルランド独特の文化・風俗・歴史を、
東西南北地域ごとに章分けしながら、
エッセイ・紀行文の王道とも言えそうな文章で紹介していて、
読んでいるとその旅行気分にいつまでも浸っていたい気になる。

アイルランドは歴史的に様々な苦難を味わってきた地域だ。
もともとケルト民族の地だったこの場所にキリスト教が伝来したのは
ローマ時代のことだった。
現在のアイルランドの守護聖人である聖パトリックが
土着のドルイド教を吸収する形でキリスト教を布教させると、
住民の大半はカソリックを信仰するようになるが、
17世紀、清教徒革命を主導したO.クロムウェルが
アイルランドに侵攻・併合すると、
カソリックのアイルランド人たちは徹底して弾圧された。
ケルト語の使用を禁じられたり、
税制など政治的に不平等な扱いを受ける中、
19世紀には「大飢餓」とも呼ばれる歴史的なジャガイモ飢饉が起こり、
当時約800万人いたアイルランド人のうち100万人近くが死亡し、
約200万人が国外へ移住しなければならなかったという。
西部から南部にかけての地域では、
まだこの時代のうち棄てられた廃屋が点在してるらしい。

その後、第一次大戦を経てアイルランドは独立を勝ち取るが、
その過程で悲惨な内戦や現在にまで残る北アイルランドの問題等、
様々な問題を抱えている。
70年代末~80年代にかけては
北アイルランドのアイルランドへの統合を求めたIRAによるテロが
ベルファストやロンドンなどで頻発し、
98年、アイルランド統合派とイギリス統合派との間で結ばれた
ベルファスト合意の直前にも、
IRAから分派したリアルIRAによる爆弾テロがあり、
複数の子どもを含む20名以上の人が亡くなったという。
合意によって北アイルランドの平和はひとまず得られたが、
近年は例のスコットランドの住民投票の影響などもあって、
再び暗雲が立ち込め始めてるというニュースを、
ごく最近ネットニュースでも見た。
同じような問題は
スペインのバスクやカタルーニャなどでも起こっているようだ。

そうした情勢不安に直面しながらも、
しかし大半のアイルランド人は、
「権力者は歴史を創るが、民衆は歌を創る」
というアイルランドの諺?に倣って、
今日も歌を創り続けているのだろう。
こん棒ではなく
言葉やメロディで抵抗する意思を示したU2のボノのように、
アイルランドのそうした伝統こそがジョイスやベケットなど、
優れた言葉の魔術師を生みだしてきたのだろうし、
僕はそうしたアイルランドの伝統こそを愛したいと思う。