今期の直木賞の一人に、
作家の姫野カオルコさんが選ばれた。
5度目にしてようやくの受賞、
やっと、という感じ。
その姫野カオルコさんの小説『受難』を読んだのは
随分前のことになる。
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近く、岩佐真悠子さん主演で映画も封切されるようだが、
修道院で育ち、完璧な美貌を持ちながら、
近づいてきた男性の誰もが最終的には改心して去って行ってしまう
というフランチェス子が、
股間にできた人面瘡「古賀さん」に「ダメ女!」と罵倒されながら
日々生きていくさまをどう演じるのか、
正直見ものだと思う。
上記のあらすじを読んでもわかるように、
この小説はかなりぶっとんだ設定で、
ある意味では非常に下品とも思えるかもしれないが、
最後まできちんと読み通すと、
それがジェンダー(性差)の問題に関して
根本的な変化を読者に促していることが分かる。
全編通して下ネタのオンパレードなのだけど、
その爆笑下ネタ波状攻撃を浴びているうちに、
性をことさらに言挙げすることがなんとバカらしいことかと
思えてくる。
つまり、読者も又、フランチェス子に改心させられてるのだ。
姫野さんの小説は、概してこんな構造になってるものが
多いように思う。
『受難』の前に読んだ『終業式』でも、
一見、高校の同級生たちの、
その後の10年余りを描いた恋愛小説だが、
そこには記憶や生あるいは性に対する根本的な提起が
潜んでいるように思う。
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それは言い換えれば、
現在の「純文学」が忘れかけているもののように思えるし、
その意味で、姫野文学こそ、純文学ではないかとすら、
僕には思える。
ともあれ姫野さん、直木賞受賞おめでとうございます。
これからもどんどん姫野ワールドで世界を侵食して行ってください。