えんじゅです。
Twitterにも書きましたが、
昨日、イラン映画の『別離』を見て来ました。
とても、とても素晴しかった![]()
ひとつの離婚裁判が呼び起こすさらに大きな悲劇。
イスラームという独特の宗教文化の中で暮らす
普通の人々の生活の中に、
家族、社会格差、そして政治といった、
現在のイラン社会が抱える極めて深刻な問題が、
さりげなく、それでいて鮮やかに素描されていたと思います。
イラン映画といえば、
僕なんかはアッバス・キアロスタミ監督の『桜桃の味』なんかを
思い出しますが、
そのキアロスタミ監督やモフセン・マフマルバフ監督といった
名だたる映画人の活動を支えた改革派ハタミ政権の崩壊以降、
イランからは高水準の映画は消えてしまったかと思ってましたが、
こういう作品に出会えたことは非常に嬉しく思えます(*^▽^*)
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イランに限らず、現在多くのイスラーム急進派の国で、
映画をはじめとした文化一般が規制されるのはひとえに、
偶像崇拝の禁止などクルアーンの教えによるものと思われますが、
一方でサウジアラビアやインドネシア、マレーシアのように、
イスラームでありながら経済的文化的に発展してる国もあって、
日常イスラームの社会について一般教養以上の知識に
触れることのない僕たちには、
なかなかその違いを実感を持って知ることができないのでは
ないでしょうか。
僕が最初にこのことを強く感じたのは浪人時代、
2度目の高校受験の手続きのために母校の中学を訪れた帰りに、
ふと天からの啓示か何かのように、
なぜ日本ではイスラーム圏の情報がほとんど伝えられないのか?
と思ったことがきっかけでした。
今思うとなぜそんなことを思ったのか全然わかりませんが、
当時はそんな風に突然脈絡なく思いつくということが
時々あったように思います(;^_^A
その後進学した高校の図書館で、
片倉もとこさんの『イスラームの日常世界』という本に出会い、
イスラーム社会のことがわずかながらわかったように思います。
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僕のイスラーム理解は今でも大部分この本に基づいてますが、
シーア派(少数派)、スンニ派(多数派)といった違いはあれ、
上記のような違いは宗教原理との距離によると言うことが
できるような気がします。
日本でも「生臭坊主」という言い方があるように、
イスラーム圏でも宗教に対しては個人や社会によって
温度差があると片倉さんは言います。
アフマドネジャドとハタミ、あるいはイランとサウジの違いは、
ひとえにこうした温度差だと言い換えることができますが、
問題なのはその温度が高すぎた場合、
かつてアフガンのタリバン政権が世界遺産バーミヤンの石仏を
破壊したように、
貴重な文化遺産の破壊に至るばかりでなく、
その社会内においても人々の生活に様々な支障を生み出す
ということでしょう。
たとえば作中、夫の認知症の父親を介護するパートの女性が、
その父親の粗相の後始末をしてよいかどうか、
宗教裁判所?に電話でいちいち尋ねるシーンがあります。
イスラームは男女問わず肌の露出を極端に嫌うので、
身内でもない女性が男性の下の世話をするというのは
一般的に罪ととられるようで、
こうした教えの弊害がうまく描き出されていると思います。
一方で、先の片倉さんは本の中で、次のようにも書いてます。
「近年、多くの女性たちがまたベールをかぶり出した。逆説的になるが、ベールをかぶるということにより女性の社会進出が促進されるという面もある。ムハッジャバ(かぶりもの、ベールをした女の意)であれば、男ばかりのところへ入りこんでもいいとされるからである。女たちは、これをかぶることにより、『見られる女』から『見る女』に変身する。これにより容姿だけで判断されることをきっぱり拒否して、中身で勝負しましょうということになる。」(P.94-95)
実際インドネシアなどでは女性の社会進出率は日本より高いそうで、
ベールをまとった女性の政府高官など、
ニュース映像で見る機会も多いような気がします。
いずれにしろこうした宗教文化の両義性(短所と長所)を踏まえ、
離婚という一つの出来事を中心に庶民の姿を描くことで
イラン社会の閉塞性、病理性を
(あくまで物静かに)明らかにする点でこの作品は
大変優れた作品だと思います。
最後の曲も物悲しくてとてもよかった(;´▽`A``
ぜひぜひお勧めの映画です![]()