ひとつの町が地図から消えた日
わたしたちは一本の蝋燭のもとで
体を寄せあった。
年寄りも若者も
男も女も
狭い体育館の中にびっしりと横になって
だるまストーブを囲みながら
互いの無事を確認しあった。
地震が、津波が、放射線が、
わたしたちから町を奪っていった。
わたしたちは日々、薄れ行く記憶と
戦っている。
ともすれば日常のなかに埋没してしまう。
だが記憶は、
その日常から生じているのだ。
砂に塗れた海辺の平地では
ただ風と潮の匂いだけが
噎せるように渦巻いている。
そこでは記憶は
一個の宝石となって輝いている。
あるひとつの戦いの軌跡を描きながら。