えんじゅです。

昨日、塚本晋也監督、Coccoさん主演の映画

『KOTOKO』を観てきました。


http://www.kotoko-movie.com/index2.html


すばらしかったですビックリマーク


家庭内暴力を受けていた経験のあるシングルマザー琴子は

人間が2重に見える。

一見優しそうな人でも、もう一方の悪い人格が現れて、

琴子と大二郎の親子を襲ってくるように見え、

琴子は大二郎を護るためにやむを得ず暴力を振るってしまう。

そんなことを繰り返していくうちに、琴子に虐待の疑いがかかり、

大二郎は沖縄に住む琴子の姉夫婦の元に引き取られてしまう。

失意の日々を送る琴子だったが、

そこに小説家の田中と名乗る男が現れ・・・という内容。


予告編や前評判ではもっと重苦しい感じかとも思ったのですが、

思ったよりも笑いの要素もあって、とても楽しめました(*^▽^*)

本編終了後のトークイベントで塚本監督が仰っていましたが、

どうやら監督とCoccoさんの間で「ドリフをやろう」という話もあったようで、

血糊まみれになりながらのやり取りは真剣でありながらも

どこか可笑しみがこみ上げてくる作品になっていました。


とはいえ題材が題材なだけに、色々と考えさせられることもありました。

映画を見る前からあらすじを読んで

スイスの精神科医C.G.ユングが言っていたという

太母(グレートマザー)元型のことは考えていたのですが、

女性が子どもを産み、育てるということ、

あるいは大切なものを守るということを深く考えさせられました。


パンフレットでCoccoさんも書いてましたが、

この社会(世界?)にはある種の母性神話があり、

「現実の狂気や一見不可解であっても

深く凄まじいほどの愛の形」(Coccoさん)は

見過ごされる傾向にあるように思います。

自らの歌の中で長年狂気や歪な愛の形を歌い上げてきた

Coccoさんならではの指摘だと思いますが、

ユングは神話や古今東西の文学作品を比較研究する中で

「母性」のこうした両面を見据え、

「太母(グレートマザー)」という元型の一つとして考えていたそうです。


元型というのは、ユングが無意識、

特に個人的無意識よりもっと深い層にあると考えていた集合的無意識、

神話や文学作品などに現われるパターン化されたイメージのことで、

他にも「アニマ/アニムス」や「影」や「精神(ガイスト)」といったものが

考えられているのですが、

そのうち「太母(グレートマザー)」は聖母マリアや魔女、ドラゴンのような

シンボル(象徴)で表されると考えられています。


「太母(グレートマザー)」には二つの側面があり、

ひとつは聖母マリアやマドンナ像(モナ・リザとか)に象徴されるような

優しく慈しみ、包み込む作用、

もうひとつは魔女やドラゴンに象徴されるような相手を攻撃し、

飲み込もうとする作用です。


ユングはこうした元型を遺伝によるものと考え、

その人の置かれた状況によってどちらの性質が現われるか、

あるいはどういった意味を持つかが異なってくると

考えていたそうですが、

僕は環境による影響もあるのではないか、言い換えれば、

遺伝と環境の掛け算ではないかと考えています。


映画『KOTOKO』はある意味で、

こうした考え方を裏付けてくれたように思います。

DV(家庭内暴力)を受け、

幻覚とフラッシュバック(過去の記憶が瞬間的に蘇ってくる)の中にいる

琴子は、息子・大二郎にとって、

普段は自分を慈しみ包み込む「よい母親」のイメージですが、

その愛情が行き過ぎ、戦場のイメージなどと重なってくるに及んで、

わが子を攻撃し、飲み込む「悪い母親」のイメージへと変貌します

(余談ですが、戦場を連想するシーンに絡んで、監督が言っていた

「いつも、最後にはひとつの光を見せたいと思っているが、

その前に圧倒的な絶望を描かなければ意味がないとも考えている」

という言葉にはすごく、すごく共感しました)。


こうしたイメージの問題は、

現在の子育てや虐待の問題とも深く関わってる気がします。

昔よりはずいぶん緩くなっているとはいえ、

高度成長期に成立したと考えられる性役割モデル、

女性が家事育児を負担し、男性が一家の稼ぎ手となるというモデルは

いまだに幅を利かせてますし、

少子高齢化や経済停滞がこれだけ叫ばれる中で、

女性の社会進出や男性の育児休暇取得率は先進諸国中でも

最低レベルと言われています。


こうした中で僕たちは現実にどう向き合っていかなければいけないのか、

考える上でこの映画は非常に参考になると思いますし、

また、この映画はたまたま母子を描いていますが、

大切なものを守ること、という意味では、

男も女も、大人も子どもも関係ないと思うので、

そういった面から見るのも面白いのではないかと、

被災地に身を置くものとしては思いました(;^_^A


皆さんもぜひぜひ、『KOTOKO』、ご覧になってくださいビックリマーク