えんじゅです。
なんとなくそんな心境なので、
金子光晴の詩『富士』を上げときます。
金子が戦時下、
息子・乾に召集令状が届いた際に書いたといわれる詩です。
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重箱のやうに
狭つくるしいこの日本。
すみからすみまでみみつちく
俺達は数へあげられてゐるのだ。
そして、失礼千万にも
俺達を招集しやがるんだ。
戸籍簿よ。早く焼けてしまへ。
誰も。俺の息子をおぼえてるな。
息子よ。
この手のひらにもみこまれてゐろ。
帽子のうらへ一時、消えてゐろ。
父と母とは、裾野の宿で、
一晩ぢゆう、そのことを話した。
裾野の枯林をぬらして
小枝をビシビシ折るやうな音を立てて
夜どほし、雨がふつてゐた。
息子よ。ずぶぬれになつたお前が
重たい銃を曳きずりながら、喘ぎながら
自失したやうにあるいてゐる。それはどこだ?
どこだかわからない。が、そのお前を
父と母とがあてどなくさがしに出る
そんな夢ばかりのいやな一夜が
長い、不安な夜がやつと明ける。
雨はやんでゐる。
息子のゐないうつろな空に
なんだ。糞面白くもない
あらひざらした浴衣のやうな
富士。
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日本の象徴でもある富士を、
「あらひざらした浴衣」と切って捨てるその感性。
赤穂浪士よろしく
間違った大義でも忠義を尽くすという因襲に、
決然と正面から反抗するその姿勢。
素敵です