えんじゅです。
たまに見返したくなる映画のワンシーンのひとつに、
ハーモニー・コリン監督の『ジュリアン』の中で
クロエ・セヴィニーが夕暮れの草原の中を、
キリスト教のミサ曲の一つである『アニュス・デイ(神の子羊)』を
口ずさみながら歩くシーンがあります。

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夕陽にきらめくススキの中を歩いてくシーンがなんとも美しく、
コリン監督の作品の中でも随一といっていいほど
美しいシーンじゃないでしょうか。

ミサ曲はキリスト教で聖体拝領などの際に歌われるもので、
「神の子羊」というのはイエスを象徴する言葉とされており、
世の平和を願う曲であるとされます。
歌詞はこんな感じです。

「神の子羊
世の罪を除きたもう主よ
我らを憐れみたまえ

神の子羊
世の罪を除きたもう主よ
我らを憐れみたまえ

神の子羊
世の罪を除きたもう主よ
われらに平安を与えたまえ

神を支えに
神を支えに
生きていく
永遠の愛を支えに」

コリン監督の作品ではこの『ジュリアン』を始めとして、
前作で監督デビュー作の『ガンモ』や日本未公開?の最新作など、
アメリカ南部に生きる白人貧困層(プア・ホワイト)の生活が
しばしば描かれますが、
それは彼がこうした人々が抱くキリスト教原理主義的な信仰に
共感するからでも、
またそうした信仰をバックに勢力を伸ばす共和党を
支持するからでもなく、
むしろ彼らのそうした現実を丹念に描き出すことで、
彼らの(そしてアメリカの)抱える問題を
炙り出したいからではないでしょうか。

現にこの『ジュリアン』から9年ぶりの監督作品となった
『ミスター・ロンリー』では、
物まねを生業として生きる芸人たちと
慈善活動を通じて奇蹟を起こそうとする中米?の修道女たちの姿を
並行して描きながら、
一見まったく関係がない彼らへの深い愛情を感じ取ることができ、
監督の、底辺に生きる人々への共感が伝わってきます。

『ジュリアン』のこのシーンは、
監督のそうした心情を最もよく表したシーンの一つだと思います。