えんじゅです。
朝夕の冷え込みがキツくなり、
「晩秋」という言葉がしっくり来る時期ですね。

この季節になるといつも想い出すのが、
大好きな梶井基次郎の小説『冬の日』の冒頭部分、
秋から冬への移行の情景を描いた美しい描写です。
これほど美しい情景描写は世界に小説多しと言えども
おそらくこの作品だけではないでしょうか。

こんな調子の文章です。

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 季節は冬至に間もなかった。堯(たかし)の窓からは、地盤の低い家々の庭や門辺に立っている木々の葉が、一日毎剥がれてゆく様が見えた。
 ごんごん胡麻は老婆の蓬髪(ほうはつ)のようになってしまい、霜に美しく灼(や)けた桜の最後の葉がなくなり、欅が風にかさかさ身を震わす毎に隠れていた風景の部分が現れて来た。
 もう暁刻の百舌鳥も来なくなった。そして或る日、屏風のように立ち並んだ樫の木へ鉛色の椋鳥が何百羽と知れず下りた頃から、だんだん霜は鋭くなって来た。

梶井基次郎全集 全1巻 (ちくま文庫)/梶井 基次郎

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表現を志す者のひとりとして、こういう描写をすることは、
ひとつの理想でもあります。
梶井が32年という短い凝縮された生涯の中で、
持病の肺病(肺結核)と闘いながらこうした文章を
搾り出していったことは、励みになるとともに、
僕にとってはひとつの大きな指標であり続けています。